二度目の決断の重さ…。
「女は二度決断する」(2017独)
ジャンル社会派・ジャンルサスペンス
(あらすじ) ドイツのハンブルク。ドイツ人のカティヤは学生時代に出会ったトルコ系移民のヌーリと結婚し、かわいい息子と幸せな日々を送っていた。そんなある日、ヌーリが経営する事務所の前で爆発が起こり、夫と息子が命を落としてしまう。警察はヌーリが移民だったことから外国人同士の抗争を疑うが、カティヤは移民を狙ったネオナチによるテロだと訴える。
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(レビュー) 爆破テロで愛する家族を失った主婦が決死の覚悟で犯人捜しをする社会派サスペンス作品。
ニュースなどで知っている人もいると思うが、ドイツやフランス、イギリス等のヨーロッパ諸国には周辺の国から様々な人種が移り住んでいる。特に、この映画で描かれているドイツではトルコ移民が多く、両者の間では様々なトラブルが起こっている。本作は実際にあった事件を元にして作られた映画である。そう言う意味では大変意義深い映画であり、本作を観て今一度、我々は移民問題について考えてみるべきなのかもしれない。
監督、脚本、共同製作はトルコ系ドイツ人であるファティ・アキン。
以前このブログで紹介した
「そして、私たちは愛に帰る」(2007独トルコ)も彼の監督作品である。そこでも今回の映画同様、ドイツとトルコの微妙な関係が描かれていた。両作品を見比べてみると、より一層この問題について深く考えることが出来ると思う。
物語はカティヤの目線で綴るハードな復讐劇となっている。愛する家族を失った悲しみ、犯人に対する憎しみが緊張感みなぎる展開で綴られている。
映画は全部で3部仕立ての構成になっている。
第1部は爆破事件の発生とカティヤの喪の仕事を描く「家族」の物語である。
第2部は事件の真相を巡る法廷闘争を描く「正義」のドラマ。
第3部は裁判後のカティヤの復讐劇を息詰まるタッチで描いた「海」というエピソードになっている。
「正義」のパートにやや疑問符が残るが、それ以外はとてもよく出来た映画だと思った。特に、「海」の章におけるカティヤの失意と葛藤に見応えを感じた。ラストに至るツイストもスリリングで目が離せなかった。
ただ、先述したように裁判パートについては、かなり”ずさん”な描写で突っ込みを入れたくなった。そもそも検察人は何もせずただ席に座っているだけで、これで裁判と言えるだろうか?しかも、被告人はアリバイをねつ造する偽の証人をでっちあげるのだが、この程度の嘘なら被告人のパスポートや入出国の記録を調べればすぐに分かると思うのだが…。もしかしたら偽造パスポートを使っていたのかもしれないが、それにしても警察は一体何をやっているのか?と突っ込みを入れたくなった。
このパートは、被告人の父親とカティヤの絡みも描かれるのだが、そこはとても良かった。ペーソスが感じられてしみじみときた。それだけに法廷描写が”ずさん”だったのは勿体なく感じた。
キャストでは、カティヤを演じたダイアン・クルーガーの繊細にして大胆な熱演が素晴らしかった。わき腹にサムライのタトゥーをしていたが、これはどんなことがあっても戦うという不屈の精神を物語っているのだろう。実に格好良い。
それにしても、ラストのカティヤの二度目の”決断”の意味について考えると、今のヨーロッパが抱える移民問題がいかに根深いかがよく分かる。この問題はそう簡単には解決を見出せないだろう。結局、一人一人が考え方を改めて行かなければならない問題なのだと思う。間違いなく賛否が分かれるエンディングである。…が、それゆえ後に引くエンディングでもある。