実在したバンド、フォー・シーズンズの音楽伝記映画。
「ジャージー・ボーイズ」(2014米)
ジャンル音楽・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1951年、ニュージャージーの片隅でバンドマンをしているトミーは、美しいファルセットを響かせる少年フランキーをスカウトしてバンドを結成する。フランキーの歌声は地元マフィアのボス、ジップ・デカルロを魅了し、彼のサポートを得ることが約束された。更に才能豊かなソングライター、ボブを迎え入れて、バンドは精力的なライブ活動を行いながら徐々に名を上げていくようになる。
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(レビュー) 実在のバンド、フォー・シーズンズの成功と混迷の道程を描いた音楽伝記映画。
ブロードウェイのミュージカルを元にしており、そちらはトニー賞を受賞するなど、かなり評価が高いミュージカル劇となっている(未見)。それを巨匠C・イーストウッドが撮った作品である。
自分はフォー・シーズンズのことについては全くの無知で、劇中で流れる「シェリー」を聴いたことがあるくらいである。また、終盤に流れる「君の瞳に恋してる」も楽曲自体は耳にしていたが、実はそれはカバー曲の方だったというのを後で知った次第である。元々は彼らが歌っていたということを全然知らなかった。
したがって、バンド結成や成功の過程、どうしてバンドが分裂してしまったのか。そうした経緯についてはまったくの予備知識がないため新鮮に観ることが出来た。
それにしても、これをアメリカンドリームと言わずして何と言おう。芸能界では才能ある者は星の数ほどいる。しかし、世に出るかどうかは結局は巡り合わせ、人と人の縁であることを思い知らされる。地元マフィアのボスとの出会いであったり、多額の借金を背負ってレコーディングに踏み切った逸話がいい例である。全ては縁とタイミングなのだ。
無論、実力がなければここまで成功することはなかっただろう。フランキーの美しいファルセットの歌声が必然だったことは疑いようのない事実である。本作を見ればそれはよく分かる。
この美声を再現したのはジョン・ロイド・ヤング。初見の俳優であるが、彼は舞台版でもフランキーを演じていたということである。これが実に見事な歌唱で聴き惚れてしまった。ドラマに十分の説得力をもたらしている。
イーストウッドの演出も円熟の極みを見せている。
冒頭の強盗シーンの軽快さとスリリングさとユーモア。フランキーの歌声が地元マフィアのボス、ジップに涙させるスマートな演出。ラジオ局のDJがスタジオをジャックして名曲「シェリー」を延々とヘビーローテーションしながら大衆に広まっていく様。そして、フランキーが盟友トミーに三行半を突き付ける熱度の高い演出。
齢80を超えて、この硬軟織り交ぜた自在な演出はアッパレと言うほかない。同年には
「アメリカン・スナイパー」(2014米)も公開されており、正に演出家としての円熟期に入ったと言っても過言ではない。
更に、今回は非常に目新しい演出も見られる。それはカメラに向かって俳優が語り掛けるという演出である。元の舞台劇がそうなのかもしれないが、この演出が展開の軽快さ、キャラクターの心情の明快さを上手くサポートしていると思った。こうした演出は賛否あるかもしれないが、少なくとも作品にユーモアを与えるという意味では奏功している。
また、イーストウッド自体がジャズを愛する人間ということもあり、演奏シーンにも手抜かり感は無い。
全編、そつなく作られた音楽映画で、フォー・シーズンズを知らない人、あるいは舞台版を知らない人でも十分楽しめる娯楽作になっていると思う。
もっとも、同じイーストウッドが手掛けた音楽映画「バード」(1988米)のような野心性があるわけではないので、同じ音楽物でも見応えという点ではやや落ちる。
ここ最近のイーストウッドの映画は肩の力を抜いた作品が多く、それはそれで楽しめるのだが、一時のような重厚さは鳴りを潜めている感じがする。