映像演出に驚嘆するも日本アニメの影響がそこかしこに…。
「スパイダーマン:スパイダーバース」(2018米)
ジャンルアニメ・ジャンルアクション
(あらすじ) スパイダーマンことピーター・パーカーが戦いの中で敗れて死亡する。突然の訃報に悲しみに暮れるニューヨーク市民たち。そんな中、13歳の少年マイルスは、ひょんなことから変異した蜘蛛にかまれスパイダーマンの能力を手に入れる。そこに死んだはずのピーターが中年の姿で現われた。彼は、闇社会に君臨するキングピンの恐るべき実験によって別の次元から飛ばされてきたと言うのだが…。
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(レビュー) マーベルコミックのヒーロー、スパイダーマンをフルCGアニメで映像化した作品。
様々な次元のスパイダーマンが登場して大活躍を繰り広げる痛快エンタテインメント作品で、これまでの実写版スパイダーマンとはまた違ったテイストで楽しめた。
何と言っても驚くべきはその映像である。いわゆる原作コミックを意識したマンガのコマ割りや擬音のフォント、効果線等を映像演出として取り入れながらスピード感あふれるアクションが繰り広げられている。まるでコミックをアニメーションで再現したかのような世界観は、これまでの映画では見られなかった表現方法で実にユニークだった。
しかも、本作には多次元から様々なスパイダーマンが登場してくる。
モノクロの世界からやって来たスーパーマン・ノワール、日本の萌えアニメから飛び出してきたようなペニー・パーカー、カートゥーンのアニメからやって来たようなスパイダー・ハム等、絵のタッチが実に個性的で統一感が全くない。そんな彼らが一つの画面に同居する所に何とも言えぬ楽しさが感じられた。
極めつけは、クライマックスのアクションシーンである。キングピンの実験で次元の扉が開き、まるでトリップ・ムービーのごとき目まぐるしい映像世界の中で戦いが繰り広げられる。正に映像の大洪水と言わんばかりの情報量の多さで、見てて頭がクラクラしてしまった。
もっとも、こうした映像演出は過去の日本アニメにもあるにはあった。
例えば、今石洋之作品のハイテンションな作品などは良い例である。氏が作画監督として参加したオリジナルビデオ「フリクリ」(2000日)にはマンガのコマを使ったユーモラスな映像演出があったし、彼が監督を務めたTVアニメ「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」(2010日)は完全にアメコミの世界観に寄せて作られたギャグアニメで、今回のハイテンションな映像演出はそれに近い。
あるいは、現在放送中の「ジョジョの奇妙な冒険」のテレビアニメ版には原作コミックの擬音を可視化した映像演出が登場してくる。
本作で見られる特異な映像演出は、こうした日本アニメを見ていれば特段斬新というほどではない。
ただ、ここまでの映像密度の濃さと各所に見られるヒップホップ的演出センスは、さすがに今の日本のアニメでも見られない。これには、やはり圧倒されてしまう。
物語は、いわゆるヒーロー誕生談として実にオーソドックスにまとめられている。
両親の意向でワンランク上の学校に転校させられた少年マイルスは、自分に自信を持てず鬱屈した日常を送っている。そんな彼がスパイダーマンになって世界を救う戦いに挑んでいく。その中で彼は自分の殻を破って成長していく…という実にベタなドラマである。
ただ、劇中のセリフでも語られているが、ヒーローの戦いに犠牲は付き物という言葉。この意味を考えると、このドラマは意外にヘビーであることも認識させられる。
そもそもベンおじさんという、リブートの度に殺される悲劇的キャラはこのシリーズに無くてはならぬ人物である。彼を失ったピーター・パーカーはスパイダーマンとして戦うことになり、街の平和を守りながらヒーローとして成長していく。そのシノプスは今回のマイルスもまったく一緒である。
そして、実は今回の敵キャラ、キングピンも同じように愛する人を失った悲劇の男である。その喪失感を埋めるために彼は今回の狂乱の実験を画策し、世界を破滅へと導いていく。つまり、マイルスとキングピンは正義と悪に分かれているが、夫々に背負う悲しみは一緒なのである。
そんな彼らが戦う本ドラマのコンセプトは、かなりヘビーで人間の心の弱さを鋭く突いていると言える。実に周到に考えられたドラマだと思った。
一方、本作で不満に思ったのは、様々な次元からやってきたスパイダーマンの活躍場面が意外に少なかったことだろうか…。正直に言うと、彼らとマイルスの絡みをもっと見せて欲しかった。この交流、友情がもっと濃厚に語られていれば、クライマックスの戦いは更に感動的なものになっていただろう。
それと、メイおばさんの家にどうしてあのようなモノがあったのだろうか? このあたりはシリーズを見ていれば分かるのかもしれないが、何せ自分はS・ライミ版の「スパイダーマン」しか観てないのでよく分からなかった。
また、マイルスの父は兄の悲劇と事件事情をどこまで知っていたのだろうか?このあたりが分からなかったためエンディングは少し腑に落ちなかった。
尚、エンドロール後におまけがついているので最後まで席を立たずに見届けるべし。