湯浅流お伽噺。
「夜明け告げるルーのうた」(2017日)
ジャンルアニメ・ジャンルファンタジー・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 両親の離婚で東京から地方の港町に引っ越してきた中学生カイは、鬱屈した日々を過ごしていた。そんな彼の趣味は自作の曲をネットにアップすること。ある日、その秘密をクラスメイトの国夫と遊歩に知られ、カイは彼らのバンドに誘われる。仕方なく練習場所の人魚島へ向かったカイは、そこで不思議な人魚の少女ルーと遭遇する。カイはルーと交流を育みながら次第に心のしこりを解いていく。
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(レビュー) 都会育ちの孤独な少年と海に住む不思議な人魚の少女の友情をファンタジックに綴ったアニメーション映画。
監督・脚本は湯浅政明。吉田玲子が共同脚本で参加している。
湯浅作品にしては割とベタなお伽噺で、正直肩透かしを食らった。もっとクセのある話かと思ったのだがそうでもない。もしかしたら吉田玲子の参加が、いわゆる湯浅的スラップスティックを抑制しているのかもしれない。過去の作品と比べるとかなり見やすい映画で、それゆえ自分などには少々物足りなさも覚えた。
ただ、映像は非常に面白い。アニメーションならではの高揚感が追及されている。活き活きと動くキャラクターたちは魅力に溢れており、最後まで飽きなく観ることが出来た。
ちなみに、宮崎駿監督の
「崖の上のポニョ」(2008日)という映画がある。そちらも人魚をモチーフにした作品ということで、どうしても今作と比較してしまいたくなる。
「崖の上のポニョ」のレビューを参照していただければ分かるが、これはかなり不思議な作品だった。どう不思議なのかと言うと、解釈の余地が広く取られているのだ。そのため決して万人受けするような作品ではなかった。
その「崖の上のポニョ」と比較すると、本作は至極真っ当に作られている。少なくとも「ポニョ」のような釈然としない思いは起こらない。実にスッキリとした物語である。
尚、湯浅監督は、この二本の企画の成り立ちはまったくの偶然だと述べている。しかし、その後になって「崖の上のポニョ」の存在を知り、ポニョとの差別化を図るためにルーの造形を工夫したという。
また、ルーの父親は宮崎監督の「パンダコパンダ」のパパンダを意識したとも述べている(いずれもwiki参照)。
独特の世界観を持つ湯浅監督といえど、やはり宮崎駿の存在はとてつもなく大きいことがよく分かる。
さて、物語前半はかなり駆け足気味に展開される。正直に言うと、もう少しジックリと腰を据えて描いて欲しかった。
例えば、アバンタイトルからしてそうなのだが、テレビであれば1話分のAパートを使って描くような所をたった数分で描いて見せている。ルーの正体が町の人々にバレるシーンも然り。もう少し経緯を自然と見せてくれないと物語に入り込めない。全体的にコメディ色が強いというのもあるが、展開の上滑りが目立つ。
ドラマが盛り上がるのは中盤からで、ルーが町の実力者たちに捕まり、それをカイたちが救出しようとアレコレ奔走する話になっていく。このあたりの展開もやや紋切り的でもう少し意外性が欲しかった。
一方、作画に関しては実に素晴らしかった。
何と言っても、クライマックス・シーンに度肝を抜かされた。これぞ湯浅流ダイナミズムと言おうか…。正に力技的な作画でケレンミも十分、大いに興奮させられた。
また、本作は水の表現も実に素晴らしかった。流体ではなく敢えて固体的な表現にした所が面白い。こういう見せ方をするのが如何にも湯浅正明といった感じで、他のアニメでは見れないオリジナリティ溢れる表現だろう。
逆に、作画的に少し受け付けがたい箇所もあった。それはミュージカルシーンである。おそらくだが手塚治虫の作品や古いディズニー映画を意識してるのだろう。ダンスの動きが滑らかすぎて全体の動画のタッチからすると、少し浮いている印象を持った。