この大仰さが良い。
「夜は短し歩けよ乙女」(2017日)
ジャンルアニメ・ジャンルロマンス・ジャンルコメディ・ジャンルファンタジー
(あらすじ) 京都の大学で冴えない日々を送る青年“先輩”は後輩である“黒髪の乙女”に秘かな想いを寄せていた。偶然を装いながら彼女の前に姿を見せる努力を繰り返していたある夜、彼女は摩訶不思議な夜の街へとトリップしてしまう。想いを伝えようと先輩も彼女の後を追いかけていくのだが…。
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(レビュー) 想いを寄せながら中々結ばれることのないカップルの奇妙な一夜をファニー&シュールに描いたファンタジー・アニメ。
森見登美彦の同名原作を
「夜明け告げるルーの歌」(2017日)の鬼才・湯浅正明が監督した作品である。脚本は
「サマータイムマシン・ブルース」(2000日)等で知られる劇団ヨーロッパ企画を主宰する上田誠が務めている。尚、この座組みは2010年に製作されたテレビアニメ「四畳半神話大系」と同じである。
その「四畳半神話大系」はかなりユニークな作風のアニメで、少し見る人を選ぶような作品だった。ただ、個人的にはエッジの効いた演出と一癖も二癖もあるキャラたちが繰り広げる摩訶不思議な騒動劇は他にはない魅力に溢れていて中々楽しめた。
実は、今作には「四畳半神話大系」に通じる箇所が幾つか見られる。
例えば、「四畳半神話大系」に出ていたキャラが本作にも重要な役として再登場している。あるいは、名前を変えたまったく同じようなキャラも登場してくる。
また、男女が様々な障害を乗り越えながら結ばれる…というドラマも、王道ながら基本的には「四畳半神話大系」と一緒である。
このように両作品には多くの共通点がある。見比べてみることによって一層作品としての面白さに触れることが出来るように思う。出来ればセットで鑑賞したい。
とはいえ、本作は単品としても十分楽しめるように作られているので、別に「四畳半~」を見ていなくても特に不都合はない。1本の映画として十分に完成された作品である。
湯浅監督の演出は相変わらずシュール&ナンセンスな色味が強いが、このテイストが好きな人なら全然OKだろう。独特のパースや色彩設計によってファッショナブルな映像が追及されている。
一方、ストーリーは方向性が定まらない前半部がやや痺れを切らしてしまった。
乗って行けたのは学園祭の騒動を描く後半からで、このあたりから先輩と黒髪の乙女の関係が徐々に”ゴール”に向かって盛り上げられていく。
そして、クライマックスは例によって、湯浅流ハイテンションな作画&演出が一気に炸裂し実に痛快だった。同氏の名を一気に世間に知らしめた快作「MIND GAME マインド・ゲーム」(2004日)のクライマックスを彷彿とさせる興奮が味わえた。
また、ドラマの視座が先輩から黒髪の乙女に変換するのも実に巧みなやり方である。男女の恋の駆け引きは恋愛における一つの醍醐味であるが、その”醍醐味”をこの映画は視座の変換を利用することで華麗に表現することに成功している。黒髪の乙女が恋する”乙女”に変身していくところに恋愛の甘美が実感された。