今敏渾身の監督デビュー作。
「PERFECT BLUEパーフェクト ブルー」(1999日)
ジャンルアニメ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) アイドル・グループから脱退して女優に転身を図った未麻は、ある日熱狂的ファンから脅迫めいたFAXを受け取る。やがてその行為は徐々にエスカレートし、未麻は次第に身の危険を感じていく。
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(レビュー) 熱狂的なファンから嫌がらせを受ける元アイドルの恐怖をファンタジックな描写を交えながら描いたサイコ・スリラー・アニメ。
同名原作(未読)を今敏が監督した作品で、彼の監督デビュー作である。
今監督の特徴である幻惑的な演出は、この処女作から炸裂している。サイコ・スリラーというジャンルにこれが上手くマッチしていて、最後まで緊張感が持続する見事な傑作になっていると思う。時制を操り、現実と幻想を交錯させながら、未麻の恐怖を観る側に追体験させようという試みが奏功している。
ストーリーは至極シンプルである。いわゆるストーカーの恐怖を描いたもので、それほど新鮮という感じはしない。意外な所に真犯人が…というのもすぐに予想できてしまうので推理物としてみた場合、もう少し捻りが欲しい。
それと、本作はストーカー行為のツールとしてインターネットをフィーチャーしているので、今見るとどうしても古臭く感じる部分がある。
例えば、製作当時は最先端だったかもしれないパソコン通信やホームページは今や過去の遺物である。IPアドレスからストーカーの捜索も容易に突き止められるのでは?という突っ込みも入れたくなった。このあたりは時代の流れとともに風化するモノであり致し方ないと言った所がある。
ただ、クライマックスの真犯人の見顕しから追跡劇に至るストレートな構成は勢いが良く、観終わった後には中々のカタルシスが味わえた。ラストのオチも中々気が利いていて思わずニヤリとさせられた。
一方、今監督のサスペンス演出はハードコアに傾倒していて、かなりの見応えを感じた。
今監督のお家芸ともういうべき現在と過去(回想)、現実と虚構(ドラマ撮影、夢等)を往来する演出も、すでにこの処女作から完成されており堂に入っている。
特に、未麻が何度もベッドで目が覚めるシーンが反復されるが、これなどは押井守監督の傑作「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(1984日)の夢のシークエンスを彷彿とさせる。無論こちらはシリアス劇なので、コミカルさは一切なく、一体どこから現実でどこから夢なのか分からなくなってしまう”怖さ”が追及されている。そして、この悪夢がいつ終わるのか?まったく読めない所も恐ろしい。
このように今敏の数々の巧妙な演出テクニックのおかげで、本作はアニメというジャンルながら、実写に勝るとも劣らぬ一定のリアリズムを持ったサイコ・サスペンス映画として見事に確立されている。改めて氏の演出手腕には感心するばかりである。
ちなみに、アメリカの映画監督ダーレン・アロノフスキーが本作の映画化権を購入したというのは有名な話である。氏は自身の「レイクイエム・フォー・ドリーム」(2000米)という、これまた悪夢のようなドラッグ・ムービーの中で本作にオマージュを捧げている。このことは本人の口からはっきりと述べられている。
キャストでは未麻の声を務めた岩男潤子が印象に残った。いわゆるアイドル声を得意とする声優だが、その彼女が今回は脱アイドルのキャラを演じているというのが面白い。
今回は、ドラマの撮影でレイプされるシーンに挑戦している。この時の熱演などは中々どうして。真に迫るものがあった。こうしたアダルトなシーンがあるため、本作はR-15作品となっている。