独特のユーモアで描くパペットアニメ。
「ファンタスティックMr.FOX」(2009米英)
ジャンルアニメ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 狐のMr.FOXは泥棒稼業から足を洗い、愛する妻子と平穏な暮しを始めた。自慢の新居の反対側には悪名高い3人の農場主が住んでいた。Mr.FOXは、そこで飼育されている動物を見て野性の本能を目覚めさせてしまう。大切な家畜を盗まれた農場主たちは、なりふり構わずキツネ狩りを始めるのだが…。
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(レビュー) 人間と動物たちの戦いをユーモラスに描いたパペット・アニメーション。
製作、監督、脚本は
「グランド・ブタペスト・ホテル」(2013英独)等で知られる異才W・アンダーソン。脚本に
「フランシス・ハ」(2012米)のノア・バームバックが協力している。
元々この二人はノアの監督デビュー作である「イカとクジラ」(2005米)からの付き合いで、両作家の資質も似ている。
例えば、オフビートな演出、整然さにこだわったカメラワーク、朴訥としたテイストとシニカルなテイストが合わさった何とも言えぬ感性。少しクセがある作風だが、これがいわゆる映画通に絶賛されている。
そんな二人が組んだ作品なので、当然本作は通俗的なエンターテインメント作品にはなっていない。動物から見た人間社会に対する批判が織り込まれており、観ようによっては一種異様な作品となっている。
ちなみに、アンダーソンは基本的には実写映画を撮っている監督であるが、これまでにアニメーション映画を2本撮っている。もう1本は先ごろ観た
「犬ヶ島」(2018米)である。これもかなりアクの強い作品だった。
それに比べると本作はかなり取っつきやすい映画になっている。動物たちのキャラクターも可愛らしく造形されているし、お伽噺のようなファニーさは子供や女性にも受けやすい感じがする。
物語は簡単に言ってしまうと、悪徳牧場主の支配に動物たちが一致団結して戦いを挑んでいく…という至極シンプルなものである。いわゆるアンダーソン作品ではお馴染みの<レジスタンス>の物語である。
先述した「犬ヶ島」や「グランド・ブタペスト・ホテル」などは正にこの構造のドラマと言える。また、
「ムーンライズ・キングダム」(2012米)も”大人”対”子供”という構図を考えれば、これも一つの<レジスタンス>の物語と言うことができよう。
演出もアンダーソン節が徹底されている。先述したように彼の演出は独特である。オフビートな間の取り方、機械的なカメラワーク、整然とした画面構図等、どれをとってもアンダーソン印である。
特に、FOXがバンスの工場に盗みに入るシーンは印象に残った。監視カメラの隙をついて侵入するのだが、それをカメラ越しに見せるという演出が秀逸だった。氏のオフビートなユーモアもよく出ていた。
ただ、これもW・アンダーソン映画の特徴の一つと言うことができるが、今回は全体的にクール過ぎるきらいがある。ましてや人間の俳優と違ってパペットの場合どうしても感情希薄に映ってしまう。オフビートな作風に加え、無機的な”人形”という先入観がキャラクターに対する感情移入を削いでしまう。
ドラマとしては決して淡泊というわけではない。むしろ動物たちの反逆という情熱の籠ったドラマなのだが、それが余り感じられないのはやはりパペットアニメだからだろうか。