リアリティ重視なゾンビ・ホラー・アニメ。
「ソウル・ステーション/パンデミック」(2016韓国)
ジャンルアニメ・ジャンルホラー
(あらすじ) ある夏の夜、ひとりのホームレスをきっかけに、ソウル駅周辺は謎のパンデミックが蔓延する。凶暴化した感染者が次々と人間を襲い、街中がパニックに陥った。そんな中、場末の安宿にいた元風俗嬢ヘスンは、ヒモで恋人のキウンを探しに街へ飛び出す。一方のキウンは、偶然ヘスンを探していた彼女の父親に出会う。
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(レビュー) 謎のパンデミックで混乱に陥ったソウルの街を舞台に、一組のカップルのサバイバルをリアリズム溢れるタッチで描いたホラーアニメ。
監督・脚本は「新感染 ファイナル・エクスプレス」(2016韓国)のヨン・サンホ。実は、本作は「新感染~」の前に製作された作品である。ストーリー的な繋がりはないが、この二つは姉妹作のような関係になっているので、見比べてみると中々面白いだろう。
自分は、ヨン・サンホの作品は今回が初見である。まだキャリアの浅い若手監督であるが中々面白い作家だと思った。そもそも実写もアニメも作れるということからして多才である。
確かに最近ではウェス・アンダーソンもアニメと実写を行ったり来たりしているが、こういった器用な作家は希少である。アニメにはアニメならではの作法というものがあるし。実写には実写ならでの作法がある。それを違和感なく使い分けるのだから大した才能だと思う。
尚、未見であるが、サンホはこれ以前に「我は神なり」(2013韓国)というアニメ映画も作っている。
さて、全体的な絵のタッチとしては、日本のアニメやディズニーアニメとは一線を画したリアリズム志向に拠っている。個人的には今敏の映画を連想した。キャラクターの造形、寄りではなく引きの画面で状況を説明する演出等が、そう思わせる一因である。正直、アニメとしてのクオリティはそこまで高いとは言えないが、丁寧に作られているので最後までだれずに観ることが出来た。
ちょっとしたユーモアもリアリズム志向の映像に上手く緩急をつけていると思った。
また、後半で、横転する救急車を車内から捉えたカメラアングルが出てくるが、これなどはアニメというよりも実写の撮影に近い演出技法である。やはりこの監督は基本的に実写を意識した画作りをしているのだな…ということがよく分かる。
ちなみに、このカッティングは後に「新感染~」の中でも繰り返されていた。
物語はラストのどんでん返しも含めよく出来ていると思った。ストーリーの主観を担う感染者第一号の弟が途中であっけなく退場するのは、いささか意外だったが、それ以降はキウンとヘスンのカップルを中心に物語が安定していく。
また、現代の韓国社会の情勢をストーリーに上手く絡めた所にも感心させられた。今や先進国における格差社会の問題は深刻なものとなっているが、それは韓国とて例外ではない。
ホームレスや元風俗嬢、ヒモといった主要キャラに対する、クライマックスの舞台となる高級マンションのショールーム。この対比がそのことを如実に物語っている。
今作の裏テーマを挙げるとするなら、さしずめ”弱肉強食の時代”とうことになろか…。かつての中産階級は益々生きにくい世の中になったものである。