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ニッポン国VS泉南石綿村

社会派でありながら人間ドキュメンタリーにもなっている。

「ニッポン国VS泉南石綿村」(2018日)star4.gif
ジャンルドキュメンタリー・ジャンル社会派
(あらすじ)
 国を相手取って損害賠償を求めて裁判を起こした石綿(アスベスト)被害者とその家族を8年に渡って撮り続けた渾身のドキュメンタリー。

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(レビュー)
 ニュースなどでは聞いたことがあるが、その実情は想像以上に過酷だったことをこの映画を通して思い知らされた。改めて被害者の方たちの気持ちを考えると憤りと悲しみを禁じ得ない。

 監督は「ゆきゆきて、神軍」(1987日)等で知られる原一男。本作は彼の約8年ぶりの新作である。

 映画前半は、被害者の生の声を拾い上げていく、いたってオーソドックスなドキュメンタリーになっている。
 離島から大阪の泉南に出稼ぎにやってきた者、仕事がない在日朝鮮人、多種多様な人たちが当時の石綿工場で働いていた。ところが、後になって石綿繊維を体内に吸収すると30~50年という潜伏期間を経て中皮腫、肺がんなどになることが判明する。

 被害者の会は2005年に立ち上げられたが、石綿工場は明治時代からすでに稼働していたというから、後遺症自体はもっと前から出ていたのだろう。まさか当時の人々はその原因が石綿にあったとは夢にも思うまい。
 というのも、政府はこれを調査した上で黙認していたからである。問題は正にここである。どうしてその事実を知りながら何の対処もしなかったのか?その責任問題である。

 劇中で描かれているが、実は韓国でも同様の被害が多発し、それが大きな社会問題になったという。国は違えど、同じ被害者同士、情報を交換しながら交流を深める姿が映し出される。実に印象的だった。

 そして、映画は中盤から特定の被害者の素顔に迫っていくようになる。原告団のメンバーには様々な考え方の人間がいて、時に対立することもある。おおざっぱに言うと穏健派と過激派に分かれるが、その相克が面白い。このあたりは、数々の”人間”ドキュメタリーを輩出してきた原一男監督の真骨頂という感じがした。

 中でも印象に残ったのは、徹底して怒りの声を上げる柚岡という人物である。彼の行動は一見すると過激な所があり、それが「ゆきゆきて、神軍」の奥崎謙三に少し重なって見えた。
 例えば、ある時に柚岡氏は原告団のチームプレーを乱すとして孤立してしまう。カメラは彼の複雑な心情吐露にクローズアップしていくが、その言い分を聞いていると随分と身勝手なオッサンだなという印象を持った。これが集団訴訟の難しさなのかもしれない。
 しかし、一方で彼の怒りの声が原告団に大きな力と勇気をもたらしたことは事実で、彼なくして今回の裁判の勝利は無かったようにも思える。きっと仲間たちからは頼もしい”戦士”のように尊敬されていたのではないだろうか。

 もう一人は、裁判の1審判決で損害賠償対象外として除外されてしまった女性・岡田さんである。彼女はその後も原告団代表として共に戦い続けることになるのだが、自身の利益ではなく自分と同じように苦しむ被害者達のために身を粉にして戦う。その姿に感動させられた。
 また、岡田さんと同様に損害賠償の対象から外れてしまったもう一人の女性が終盤からフィーチャーされていく。朝の通勤時間帯なのだろうか。街頭に立って拡声器で無念の思いを泣きながらに訴える姿が登場してくる。彼女の声に耳を貸す者が誰一人としていない所が実に不憫だった。

 このように映画後半に入って来ると、原告団のある特定の人物について語られるようになり、エンタテインメント=人間ドラマ的な面白さが浮かび上がっていくようになる。語弊があるかもしれないが、”原告団”というコミュニティにおける派閥争いの物語のように楽しめた。

 上映時間3時間半という長丁場の作品であるが、それを長く感じさせないのは、こうした登場人物、一人一人のキャラクターが際立っていたからだと思う。彼らの信条、人生が画面から確かに伝わってきた。単なる社会派ドキュメンタリーを超えて、”人間”ドキュメンタリーとして自分は楽しむことが出来た。

 一方で、やはり社会派的なメッセージも十分に伝わってくる傑作で、例えば原告団に対する官僚の冷めた態度などは、改めてこの国におけるお役人体質の”常”を見せられた思いになる。確かに、彼らは組織の一歯車に過ぎない。しかし、それでも人としての感情は当然あるはずだろう。組織と個人的感情の板挟みに合う姿にどこか哀愁が湧くとともに、このままではやはり官僚の体質はいつまでたっても変わらないな…ということが実感された。

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