一風変わった作りの犯罪青春物。
「アメリカン・アニマルズ」(2018米英)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 大学生のウォーレンとスペンサーは、平凡な日常に苛立ちと焦りを募らせていた。そんな2人が目を付けたのが、大学図書館に所蔵されているジェームズ・オーデュボンの画集『アメリカの鳥類』だった。2人は10億円以上の価値があるその本を盗み出そうとするのだが…。
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(レビュー) 閉塞感を抱えた普通の大学生が無謀な強盗計画を企てていく様を実験的なスタイルで綴った実録犯罪映画。
非常にユニークな構成の映画である。基本的には強盗サスペンス劇として作られているのだが、所々で本編のモデルとなった人物が登場して当時の状況や裏話を解説していく。つまり、通常の劇映画のパートと本人たちが登場するインタビューパート。この二つが交互に繰り返されながらストーリーが進行するのだ。
しかも面白ことに、彼らの証言は全て一致するわけではない。何せ事件が起こったのは10数年前のことである。その時の記憶なので細かい点ではあやふやな所が多い。
例えば、ウォーレンが見た光景とスペンサーが見た光景では、同じ光景でもちょっとだけ違う。それによって劇映画の方も二つのパターンで再現されることになる。バイヤーの仲介人のマフラーの色が違ったり、今回の獲物である『アメリカの鳥類』が展示されているページが違ったり(実はこの違いこはウォーレンとスペンサーの追い求める物が率直に反映されていると思う)等。
冒頭でこれは実話の映画化と謳っているがとんでもない。本当の実話なんて誰にも分からないのである。
監督・脚本はドキュメンタリー畑出身で本作が長編劇映画デビュー作となるバート・レイトン。元々ドキュメンタリーを撮っていたということなので、こうした実験的なスタイルになったのはさもありなん。随所で見せる緊張感みなぎる演出は中々のものである。
加えて本作は編集も実に巧みで感心させられた。インタビューのパートと劇映画のパートを繋ぎながら見事に1本の物語が形成されている。クレジットでは編集に4人の名前が掲載されていたが、相当苦労したのではないだろうか。
また、本作はキャストの演技も見ものである。
特に、計画の首謀役を担うウォーレン役のエヴァン・ピーターズの荒んだ佇まいが印象に残った。
「X-MEN:フューチャー&パスト」(2014米)や
「デッドプール2」(2018米)でクイックシルバーを演じていた彼が、ここではかなりエッジの利いた演技を披露していて新鮮だった。
スペンサーを演じたバリー・キオガンもナイーブな役所を好演している。彼は
「ダンケルク」(2017米)で父と一緒にイギリス軍を救出に向かう勇敢な少年を演じていた。
今回は芸術家肌の現実主義者というキャラクターで、ウォーレンとは対照的にどんどん計画から離れていってしまう。その臆病さも見事に表現していた。また、自身の軽はずみな一言から今回の強盗計画が始まったことに対して少なからず責任を感じていて、その苦悩も丁寧に演じられていたと思う。
この年頃にありがちな、未だ見ぬ未来に対する漠然とした不安と希望。そして夢と現実のギャップにもがき苦しむ姿。それらが彼らの演技からひしひしと伝わってきた。実にリアリティのある青春ドラマとして完成されていると思う。
最後に現在の本人たちがこの事件に対する自責の念を述べている。しかし、今頃になって反省しても、後悔先に立たずである。
ただ、多かれ少なかれ、こうしたいわゆる”黒歴史”という物は誰でも一つや二つ持っているはずである。彼らを笑って観れる人はそうそういないのではないだろうか。観る人によってはチクリと刺さってくる”怖い”映画かもしれない。