意外にもストレートな青春ロマンス。
「きみと、波にのれたなら」(2019日)
ジャンルアニメ・ジャンルロマンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ) サーフィンが大好きな大学生のひな子は、消防士の港と運命的に出会い、たちまち恋に落ちる。ところがある日、港が海の事故で命を落としてしまう。全ての気力を失い絶望するひな子だったが、ふと2人の思い出の歌を口ずさんだ時、港が水の中に現われ…。
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(レビュー) 不慮の事故で恋人を失った少女の奇跡の体験をファンタジックに描いたロマンスアニメ。
監督は
「夜は短し歩けよ乙女」(2017日)、
「夜明け告げるルーのうた」(2017日)等の湯浅政明。デフォルメされた映像センスで独特の世界観を作り出す鬼才だが、今回は意外にもストレートな恋愛ドラマとなっている。
これは脚本の吉田玲子の力が大きく寄与しているのかもしれない。
彼女はアニメ界では知る人ぞ知る重鎮で、これまでに関わった作品は「けいおん!」シリーズ、「ガールズ&パンツァー」シリーズ、映画版
「若おかみは小学生!」(2018日)等、枚挙にいとまがない。ちなみに、湯浅作品では共同ではあるが「夜明け告げるルーのうた」でも脚本を手掛けていた。夫々にタイプや取り扱うテーマは違うが、いわゆる青春ドラマを得意とする作家のように思う。その彼女のカラーが今回はダイレクトに反映されたのではないかと想像する。
その証拠に今回の物語は随分と瑞々しく、誰もが感情移入しやすいドラマとなっている。
これまでの湯浅作品に付き物の風変わりなキャラクターは出てこず、彼らが起こす奇行や珍騒動といった物もない。
そして、キャラクターデザインも、いわゆる少女漫画風なタッチに造形されており、ストーリー共々実に親しみやすい。
過去の湯浅作品を観ていると、こうした作りは少々物足りなさも感じるが、逆にこれはこれで王道の青春ロマンスというふうに捉えれば中々よく出来た作品のように思う。
キャラクターも必要最小限に抑えられていて大変見やすかった。ひな子と港というメインのカップル以外に、港の後輩と妹が重要な役目を持って登場してくる。彼らの立ち回りもドラマに良いスパイスをもたらしていた。
ラストは中々味のある締め括り方になっている。ハッピーorアンハッピーという具合に安易に答えを出さなかった所に好感を持った。幾ばくかの未来の希望を予感させた終わり方になっている。
ただ、全体的な構成を見てみると、前半のひな子と港のイチャラブぶりが少し長く感じられた。ここで描かれる二人の思い出の場所や品が全部後の伏線になっていることは映画を観ていくとよく分かるのだが、余りにもキラキラしていて観ているこちらがこっぱずかしくなってしまう。劇中でも語られていたが正に絵に描いたようなバカップルである。このイチャラブ振りが余りにも甘すぎて、今一つ馴染めなかった。
作画に関しては、まずまずの出来である。但し、最大の見所であろうクライマックスには今一つ乗り切れなかった。
元々、湯浅作品は線画が少なく、どちらかというとアニメーションならではのデフォルメ感、躍動感で魅せるような所がある。毎回クライマックスシーンではぶっ飛んだ作画で、観ているこちらを圧倒してくる。
しかし、今回のクライマックスには、いつものダイナミックさが余り感じられなかった。
確かに素晴らしい作画でゴリゴリ押しまくっているのだが、予定調和な展開がカタルシスを失わせてしまっているのかもしれない。いつもであれば理屈抜きの突き抜けた勢いが感じられるのだが、今回はそこまでの力強さが感じられなかった。
キャストでは、港役の声が残念だった。本作でメインテーマを歌っているGENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーということだが、もっと演技が出来る人に演じて欲しかった。確かに声質は良いと思う。しかし、抑揚のない演技が興を削ぐ。
ひな子役の方もプロの声優ではなくAKB48の元メンバーということである。しかし、こちらは中々上手かったように思う。