戦場に生きなければならない女性の悲劇的運命を活写!
「バハールの涙」(2018仏ベルギージョージアスイス)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル戦争
(あらすじ) 戦場で夫を亡くしたフランス人記者マチルドは、新たな取材先として中東の紛争地域に入る。そこで女性だけの戦闘部隊を率いるバハールという女性に出会う。バハールの戦いの日々に密着していくうちに、彼女の過去と悲しみを知っていくマチルド。次第に彼女はバハールの生きざまに共鳴していくようになる 。
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(レビュー) 戦火の中を戦い抜く勇敢な女性の深い悲しみと怒りを活写した戦争映画。
映画の舞台となるイラクのクルド人自治区は、2014年にISILの侵攻によって動乱に巻き込まれた。バハールはその中で愛する夫を失い、息子を少年兵として奪われ、自らは奴隷として売られてしまった。幸せな人生を一瞬のうちに奪われてしまったわけである。この映画はそんなバハールが、自らの意志で息子を取り戻すため、愛する仲間たちのために勇敢に戦っていく女性戦争映画である。
ただ、こう書くと明快なアクション映画のように思うかもしれないが、映画の主題はバハールの過去を紐解く所に置かれている。その過去から浮かび上がってくるのは戦争の理不尽さ、家族愛といったテーマである。本作は決してハリウッドが作るような快活なアクション映画ではない。極めてシリアスでヘビーな戦争映画である。
また、物語の狂言回しはバハールの戦いを取材するフランス人女性記者マチルドであり、彼女自身にも悲しい過去が存在する。戦場を専門に駆け巡るジャーナリストとしての宿命とでも言おうか。私生活の喪失、戦災の後遺症による障害といったハンデを抱えながら、それでも危険と隣り合わせの状況の中で彼女は勇敢にカメラを構える。
この映画は、ある意味で戦場に生きる二人の女性の物語。マチルドとバハールの間で芽生える友情を描いた物語…と言うこともできる。
実にテーマが意欲的であるし、現代社会を生きる女性に勇気をもたらすような貴重な女性映画になっていると思う。単なるアクション至高の戦争映画になっていない所に好感を持てた。
ただし、映画の作りとしては、やや難があるように思った。
まず全体的に時制のカットバックが多すぎるせいで、構成が今一つスッキリとしない。
また、回想もバハールとマチルド、夫々のフラシュバックで表現されているが、バハールの回想がマチルドに対するものなのか、それとも映画を観ている観客に対するものなのかがよく分からなかった。本来であれば、狂言回しであるマチルドの主観を統一した上で、こうした回想シーンは挿入するべきだろう。
演出も淡々としているので前半は退屈してしまった。確かに戦場シーンは中々の迫力なので面白く観れるのだが、マチルドとバハールのやり取り、あるいはバハールと彼女の部下たちとのやり取りはもう少し変化を付けて欲しかった。
逆に良い演出もあり、例えばバハールが奴隷屋敷から脱出するシーンの緊迫感溢れる演出は見事だった。身重の女性の存在が大きい。女性の強さをまざまざと見せつけられた。
また、クライマックスの戦闘シーンもドラマチックで見応えがあった。砲弾が飛び交う中、果たしてバハールは最愛の息子と再会できるのかどうか?目が離せなかった。
キャスト陣の奮闘も見逃せない。
特に、バハールを演じたのはゴルシフテ・ファラハニの熱演が素晴らしかった。彼女はアスガー・ハルファディの長編デビュー作
「彼女が消えた砂浜」(2009イラン)が印象的だったが、くしくもイスラム社会で虐げられる女性という役所は本作と共通している。しかし、本作ではただ黙って言いなりになるのではなく、自らの意志で運命を切り開く強く逞しい女性像へガラリと印象を変えている。「彼女が消えた~」の頃とはまったく異なり、そこに女優としての成長と変遷を確認することができた。両作品を比べてみると面白いだろう。