戦争の理不尽さをいやとういうほど思い知らされる。
「ある戦争」(2015デンマーク)
ジャンル戦争
(あらすじ) 紛争が続くアフガニスタンで平和維持軍に参加しているデンマーク軍の部隊長クラウスは、民間人の居住地域を巡回していた。ある日、パトロール中にタリバンの奇襲に遭い、部下の一人が瀕死の重傷を負ってしまう。部隊は決死の反撃に出るのだが…。
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(レビュー) 紛争地帯における部隊長の苦悩と葛藤をシリアスに綴った戦争ドラマ。
若い兵士が地雷で犠牲になるというオープニングシーンからして並々ならぬ気概が感じられる。その後に描かれるタリバンの襲撃シーンも、戦場の混乱状態を臨場感たっぷりに描いていて見応えを感じた。
ただ、本作は只の戦争アクション映画ではない。戦争の理不尽さを悲痛に訴えた、かなり問題意識の高い作品となっている。
映画は後半から、クラウスが執った指揮を巡る法廷劇へと舞台を移す。彼にかけられた嫌疑は戦場ではよくありそうなだけにリアルなものに感じられた。
確かに彼の採った決断は”事件”を引き起こしてしまったかもしれない。致命的なミスと言えばそれまでである。しかし、それは部下を救うために止む無く執った決断であり、決して責められるべきものでもないような気がする。果たして彼をそんなに簡単に断罪していいものだろうか?というモヤモヤとした感情が沸き起こる。
その一方で今回の事件では間違いなく多くの犠牲者が出たことも事実で、彼らに対する補償はどうするのか?というジレンマも残る。
戦争とは理不尽なものだ、ということは重々知っているつもりだが、改めて今回の法廷劇を観るとそのことが思い知らされる。
監督、脚本は、M・ミケルセンの好演が素晴らしかった
「偽りなき者」(2012デンマーク)で脚本を務めたトビアス・リホルム。
「偽りなき者」はいわゆる冤罪をテーマにした骨太な作品だったが、今回の作品もズシリとした鑑賞感を残す問題作となっている。
混乱をきたす戦場シーンを臨場感たっぷりに切り取った演出、地雷を運ぶタリバン兵を狙撃するシーンのスリリングさ。監督としての手腕は中々のものを見せている。脚本家としてだけでなく監督としての才能もかなりある人のように思った。
そんな中、最も印象に残ったのは、民間人がクラウスの元に救いを求めにやって来るシーンだった。民間人はタリバン兵から保護して欲しいと申し出るのだが、クラウスはそれを追い返してしまう。クラウスの言葉を通訳の女性が伝えるのだが、その時の彼女の後ろ姿が実にいい味を出していた。無下に断るには忍びないという彼女の胸中が透けて見えてくるようである。この辺りの微細な演出は、中々堂に入っていた。
一方、脚本に関しては少々技に溺れたという印象を持った。
具体的には、戦場シーンと国に置いてきたクラウスの家族の日常シーンを交錯させるシナリオ構成である。日常シーンが戦場シーンの緊迫感を途切らせてしまうのがいただけなかった。実に勿体ない構成である。
おそらくだが、クラウスの家族を度々映すことで、戦争の犠牲となる現地の民間人の死を残酷に見せようとする目論見でこうしているのだろう。いわゆる対位効果を狙ってのことなのだと思う。
実際、映画のラストカットはクラウスの息子の足のアップで終わっている。これは映画中盤で出てきたタリバン兵に殺害された現地の子供の足のアップとの対位を狙っていることがありありと見て取れる。ラストカットを見た瞬間、自分はそれが思い出されやるせない思いにさせられた。
しかし、この構成の意図は分かるのだが、さすがにこう度々日常シーンが挿入されると、ストーリーが弛緩してしまうのも事実である。できれば必要最小限に抑えてくれた方が、よりドラマに入り込めるような気がした。