知られざる戦争の影を照射した意欲作。
「ヒトラーの忘れもの」(2015デンマーク独)
ジャンル戦争
(あらすじ) 1945年5月、ナチス・ドイツの占領から解放されたデンマークで、海岸線に埋められた地雷の撤去作業が始まる。集められたのは捕虜となっていた幼いドイツ少年兵だった。彼らを監督することになったデンマーク軍のラスムスン軍曹は、あどけなさの残る少年であることに驚きつつも、ナチスへの憎悪から任務を冷酷に遂行していく。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 幼い少年兵たちが危険な地雷撤去作業に準じる姿を緊迫感あふれるタッチで描いた戦争映画。
実話を元にした作品ということを知って驚いた。いくら憎き敵兵とはいえ、人命をこうも軽んじることが許されていいのものか…と憤りと悲しみを禁じ得ない。
ナチスと言うと「悪者」というイメージを持つ人が多いと思うが、中には本作のように命を無残に散らしていった可愛そうなドイツ兵もいた。その事実を知ることが出来ただけでも本作を観た価値があったように思う。
もっとも、事実をそのまま映画にしたからといって、その映画が本当に面白くなるという保証はない。やはりエンタテインメントとして成立させるためには、そこに色々と脚色を入れて観る側を楽しませる、考えさせるということをしなくてはならない。
果たしてそのあたりをどういうバランスで作っているのかは分からないが、少なくともエンタテインメントとして観た場合も、本作は中々よく出来ていると思った。
その肝要を成すのはラスムスン軍曹の存在である。
正直、犠牲となるドイツ少年兵たちのドラマはそれほど深くは描かれていない。それよりも本作はラスムスンを中心にドラマが構成されており、彼の葛藤に迫る作劇がなされている。
彼は最初はドイツ兵を憎んでいた。しかし、地雷撤去作業をするのがまだ幼い少年兵であること。彼らに直接の戦争の責任はないこと。そして、任務とはいえ彼らを地雷が埋まる死地へと送り出す自らの行為の残酷さに苦悩し始める。彼のこの苦悩と迷いがドラマを面白くしている。
その葛藤はやがて少年兵たちに対する同情の念に変わり、更には疑似親子、友情にまで発展していく。このあたりの彼の心理変遷は周到に描写されており、自然とラスムスンの心情に寄り添いながら映画を観ることが出来た。
とはいえ、このまま終わってしまっては、戦火に芽吹く美談として出来過ぎな感はぬぐえない。実話の映画化という重みを考えた場合、ただの甘ったるい美談で終わってはいけないことは製作サイドも考えたのだろう。終盤で少し展開を捻っている。
具体的には、ラスムスンの愛犬が地雷の犠牲になってしまう事件である。これをドラマの転換点に据えて骨太なドラマにしている。一度心に抱えた憎しみはそう容易く拭うことはできない…という厳しい現実を観る側に突きつけてくるのだ。
そして訪れるラスト。ここにいたってこの映画は改めて戦争の悲劇を乗り越えることの大切さを説く。
最後はエンタテインメントとして綺麗にまとめられており、実にしたたかにして、そつのない作りで感心させられた。
アクション的な見所としては、やはり少年兵が地雷を撤去するシーン、これに尽きると思う。
幼い少年が地雷を撤去するというと、
「亀も空を飛ぶ」(2004イラン)という映画が思い出されるが、これもいつ爆破するか分からないスリリングなシチュエーションでハラハラドキドキさせられた。
今回はその時に比べるとかなり直球な描写をしている。手足が吹き飛ばされ、体が粉々に四散して跡形もなくなってしまう少年兵たち。仲間を失いパニックに陥る現場は、言葉では言い尽くせぬ凄惨さである。
地雷が埋まっている砂浜は一見すると実に美しい。しかし、その美しさもどこか死の世界を匂わせる恐ろしい景色に感じられた。