まさかのヒトラー復活で世界はどうなる!?
「帰ってきたたヒトラー」(2015独)
ジャンルコメディ・ジャンル社会派
(あらすじ) 死んだはずのアドルフ・ヒトラーが、なぜか2014年のベルリンにタイムスリップする。偶然彼をカメラに収めた元テレビ局のディレクター、ファビアンは、彼をネタに起死回生の番組作りを開始する。出来上がった映像は世間の人々を驚かせ、たちまちヒトラーはモノマネ芸人として人気者になっていく 。
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(レビュー) もし現代にヒトラーが蘇ったら…という奇想天外なアイディアを元にしたナンセンス・コメディ。2012年に発行された同名の風刺小説の映画化である。
非常に楽観的な作風で笑いながら観れる映画である。
例えば、公共の場にヒトラーが現れて人々の反応をカメラに収めるシーンがある。ほぼゲリラ撮影のように見えたが、みんな笑いながらヒトラーに握手を求めたり一緒に記念撮影をしている。もはやアイドル並みの人気者で、これがナチスを生んだドイツの現状か?と苦笑してしまった。
また、現代に蘇ったヒトラーはファビアンとドイツを旅しながら一緒に番組の撮影していくのだが、その道中で彼は似顔絵のバイトを始める。ヒトラーは政治家であると同時に画家でもあったことは有名な話だが、それを踏まえて観るとこのクダリなどはクスリとさせる。
あるいは、ヒトラーが現代のお菓子やインターネットに触れて驚くシーンも、ジェネレーション・ギャップの妙が効いていて可笑しかった。
このように実に能天気なコメディなのだが、ただ一つ。ヒトラーが自分にまとわりつく犬を呆気なく銃殺するシーンは、ちょっとドキリとする。このシーンは後の彼の運命を左右する伏線となっているのだが、ある意味でヒトラーの残酷な独裁者としての一面を覗かせる恐ろしい場面である。
映画は後半から、ヒトラーがテレビを利用してプロパガンダを先導していくようになる。一緒に番組作りをしてきたファビアンは、ヒトラーのカリスマ性に恐れを抱き、どうにかして彼の出演番組を中止しようとするのだが、時すでに遅し。ヒトラーはもはや誰の手にもおえないモンスターのようになっており、大衆の心を掌握してしまっている。
視聴者に向かって現代社会の閉塞感を訴えながら、大胆にも政治家の実名を出して批判したり、移民問題に対する警鐘を鳴らしたりしながら大衆を扇動していく。過去の歴史を繰り返そうとしていくのだ。
こうして歴史は作られるのか…ということをまざままざと見せつけられ、ちょっとゾッとするような怖さをおぼえた。
過去の過ちを知っているドイツ人がヒトラーの物まね芸人の言うことをそんなに簡単に受け入れるのか?という疑問を感じつつも、彼の言っていることが至極真っ当なことも含め、大衆操作の怖さが皮肉たっぷりに描かれており、中々毒の強いコメディになっている。
ラストのオチも良い。ある種バッドエンドのような苦々しさが残る所に歯ごたえが感じられた。
一方で、本作にはファビアンとADの女性とのロマンスが登場してくる。しかし、話の力点がヒトラー騒動に向いてしまうため、このドラマは後方へ追いやられてしまった感がある。せっかく良いロマンスなのに消化不良な感じになってしまったのは勿体なかった。
尚、劇中には映画のパロディが幾つかでてくるので、映画好きとしてもたまらない。
例えば、ファビアンの部屋には「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985米)のポスターが貼られていた。タイムスリップ物という点で言えば本作との共通性がありトンチが効いている。きっとファビアンはこの映画のファンなのだろう。そして、「バック・トゥ~」の主人公マイケル・J・フォックスと言えば赤いライフジャケットである。本作のファビアンもそれと同じライフジャケットを着てクライマックスで大活躍(?)を見せている。
また、劇中にロメロ版「ゾンビ」(1978米伊)のエンディングに使用された曲がちょっとだけ流れる。「GONK」というホラー映画には似つかわしくない非常に陽気な曲なので覚えている人もいるかと思う。この辺りの選曲も中々に心憎い。