タラ流密室劇に手に汗握る。

「ヘイトフル・エイト」(2015米)
ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) 南北戦争後のワイオミング。賞金稼ぎのジョン・ルースは賞金首の女デイジーと馬車に乗って雪山を移動していた。そこに元騎兵隊の賞金稼ぎマーキス・ウォーレンが現れる。彼もまた賞金首3人の死体を抱えて換金するためにレッドロックへ向かっていた。ジョンとマーキスはかつて知り合いだった仲で共にレッドロックを目指すことにする。一行は猛吹雪を避け、道中にあるミニーの紳士洋品店に立ち寄ることになるのだが…。
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(レビュー) 8人のヘイトフル(憎むべき者)達の抜き差しならぬ攻防を息詰まる緊張感で描いた作品。
Q・タランティーノが監督・脚本を務めた西部劇だが、前作
「ジャンゴ 繋がれざる者」(2012米)に比べるとミニマルな作りの西部劇になっている。
とはいえ、物語の中には当時の南北戦争の傷跡をきっちりと忍ばせており、このあたりは流石にタランティーノである。個々の人物の心理を極限まで追い詰めた巧みな語り口も相まって、一瞬も退屈するスキがないほどに緊密に作り上げられている。彼の真骨頂が味わえた。
尚、かつてタランティーノは「フォー・ルームス」(1995米)というホテルを舞台にしたオムニバス作品を盟友R・ロドリゲスと共に撮ったことがある。あれも基本的には密室劇の映画だった。正直、他の監督たちがとったエピソードは今一の出来だったが、さすがにタランティーノ自らが演出した第4話は一番面白かったと記憶している。
本作は上映時間が3時間弱と、かなりの長尺だが、それでも飽きずに観れたのは、やはり彼が作り出す会話劇のテンポの良さ、登場人物の心理戦、駆け引きが濃密に詰め込まれているからであろう。改めてタランティーノのストーリーテラーとしての才能に感心させられた。
本作に出てくる8人のキャラクターも実に個性的で面白かった。夫々に過去に深い因縁があり、その関係性をミステリアスに紐解いていく構成が上手かった。裏切りと共闘が織りなす8人のパワーゲームも飽きさせない。
また、伏線の仕込みも実に巧妙で、このあたりもタランティーノが得意とするフラッシュバック構成で見事に回収されている。
但し、バイオレンス描写に関してはかなり振り切った感があり、終盤はほとんどスプラッタ映画のようになっていて、ここは観る人を選ぶだろう。個人的には今一つ乗れきれなかった。ホラー映画ではないのだから、果たしてここまでの露悪趣味な過激さは必要だったかどうか…。
そもそも本作は南北戦争の影が色濃い時代の物語であり、ある意味では前作「ジャンゴ~」と同様に黒人奴隷による白人に対する復讐というシリアスなテーマが標榜されている。
こうしたシリアスなテーマをエンターテインメントに昇華させる手腕は確かに見事であるが、終盤の酒池肉林と化していくスプラッター銃撃戦は流石にやりすぎである。結果的にテーマよりも後味の悪いさだけが残ってしまった。
キャスト陣は豪華である。特に、紅一点のジェニファー・ジェイソン・リーの熱演が印象に残った。彼女の首には賞金がかけられており、劇中では容赦のない扱いを受けている。その汚れっぷりが中々のものだった。
タランティーノ映画の常連、サミュエル・L・ジャクソン、マイケル・マドセンも安定した演技を見せている。他にカート・ラッセル、ブルース・ダーンといった好者が良い味を出していた。
ただ、T・ロスについては、前作のC・ヴァルツと何となく被る感じがして残念である。彼ならもっと別のキャラを造形できたのではないだろうか?