あのW・ヒルがM・ロドリゲスを主役にアクション映画を撮りあげた!
しかもただのアクション映画ではない!
「レディ・ガイ」(2016米)
ジャンルアクション
(あらすじ) 殺し屋フランクは、マフィアのボス、オネスト・ジョンの裏切りによって性転換手術で女の体に変えられてしまった。復讐に立ち上がった彼はボスの手下を次々と血祭りに上げていくが…。
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(レビュー) 性転換手術で女の体に変えられてしまった元殺し屋の復讐を壮絶なバイオレンス描写で綴ったアクション作品。
中々ぶっ飛んだ設定の物語で最後まで楽しめた。
本作の原案、脚本、監督を務めたのはW・ヒル。
これまでに数多くの男臭いアクション映画を撮ってきた巨匠である。そんな彼が女性を主人公にした映画を撮るのだから世の中何が起こるのかわからない。しかも、性転換手術によって女の体にされてしまった主人公というのが面白い。昨今のジェンダー・ブームに目配せしながら、現代でしか撮れないアクション映画を作っているのは流石というほかない。
主人公フランクはストイックな殺し屋で、いわゆるマッチョである。これまでのW・ヒル作品ではよく見るタイプの主人公で、非常に男臭い。そんな彼がある日突然、性転換手術によって女にされてしまう。なんとも人を食った設定の物語だが、これが彼のセクシャリティを破壊してしまう。これまでに味わったことがない屈辱。女性ならではの肉体的な弱さや、セクハラ、あるいは男には分からない生理的現象に苦闘することになるのだ。これは言わば、肉体は女であるが心は男という、性同一性障害と同じような立場と言える。
そして、本作にはフランクに手術を施したマッド・サイエンティスト、レイチェルという女医が登場してくる。こちらは常に男装の麗人といった服装を決め込んでいる。おそらくだが彼女も性的コンプレックスを抱えて生きてきた女性なのだろう。セリフでは語られていないが、きっと男になりたかった女なのだと思う。
つまり、この物語は女にされてしまった男と、男に憧れた女医の性的葛藤と戦いを描いた壮絶な復讐のドラマなのである。
こうした深読みをしていくと、W・ヒルの狙いというのも何となくわかってくる。
もっとも今作はアクション性の強い作品なので、そのあたりのテーマが薄みになってしまったのは残念である。精神と肉体、性別の狭間で苦悩する彼らの心理の奥底までには深く言及されておらず、あくまで隠し味程度に留められている。ドラマ性という点ではやや物足りなさを感じてしまう。
とはいえ、ストーリー自体は中々ミステリアスに構成されていて最後まで面白く観ることができるので決して退屈するようなことはない。
前半は、レイチェルの回想を元にした過去のドラマになっており、後半からフランクの告白を元にした回想となっている。実に巧みな視点の切り替えで、前半の伏線と後半の回収も見事に整合性が取れている。
確かに突っ込み所は色々とある作品である。
例えば、敵対するマフィアが余りにも弱すぎること。
途中で登場するジョンという女性が、あからさまに胡散臭いこと。彼女の正体は別に途中でバラしても良かったのではないだろうか。
また、アクションシーンは昨今のスタイリッシュな画面を見慣れてしまうと少し地味に映るかもしれない。むしろ、W・ヒルは昔からゴツゴツとした手触りのアクションを得意とする監督なので、逆にそっち方面でグイグイと責めても良かったのかな…という気はした。どうにも中途半端な印象である。
キャストではフランクを演じたM・ロドリゲスの熱演が素晴らしかった。自分がこれまで観た中ではベスト・パフォーマンスのように思う。肉体を張ったアクションはもちろんのこと、肌を露わにした体当たりの演技も素晴らしかった。尚、男の時の裸はCGで胸を消しているようだった。