理不尽な労使関係を鋭く突いた社会派人間ドラマ。
「サンドラの週末」(2014ベルギー仏伊)
ジャンル人間ドラマ・ジャンル社会派
(あらすじ) 夫と2人の小さな子どもと幸せな暮しを送っている主婦サンドラは、体調不良で仕事を休んでいた。このたび復職しようとしたが、経営の苦しい会社側から解雇を通達される。余りにも一方的な解雇処分に怒りを覚ええたサンドラは不満を訴える。これに対して会社側はサンドラの再雇用を社員の投票をかけることを提案するのだが…。
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(レビュー) キャリア復帰を目指す主婦の孤独な戦いをシリアスにつづった社会派人間ドラマ。
監督・脚本はベルギー映画界の名匠ダルデンヌ兄弟。いかにも彼ららしい現代社会の影に照射した野心作となっている。
昨今アジア系を含め多くの移民を受け入れてる欧州諸国の問題を鋭く突いている所が本作の肝だ。サンドラが務める会社も例に漏れず。中国資本が流入しコストカットを強いられる。そこには様々な人種の人間が働いていて、そのいずれもが貧しい暮らしを送る低所得者層である。日本もそうだが、ベルギーにも厳然と格差社会が存在していることが認識される。
そんな中、一人の主婦が解雇の危機に晒される。彼女、サンドラはおそらく精神疾患か何かの病気で休職していたのだろう。言葉で説明しないのがダルデンヌ映画らしいところだが、画面に睡眠薬や精神安定剤が出てくることから何となく想像できる。
物語は、そんなサンドラが解雇を巡って会社側と激しい対立を繰り広げていくドラマとなっている。
会社側はサンドラの解雇or再雇用の採決を社員の投票にかけることを提案する。一見すると民主的な方法に思えるが、しかし実際には社員は雇われている身である。会社の言いなりになるしかなく解雇に投票するしかないわけで、これでは完全にフェアとは言い難い。こうしてサンドラは投票の日まで、社員一人一人の家を訪ねて説得に駆けずり回ることになる。
その戦いは、劇中で本人が語っているようにまさに憐れみを請う乞食のようであり、観ててひたすら辛かった。
中にはサンドラを気の毒に思って応援してくれる人もいるのだが、ほとんどの人は自分可愛さに彼女の話を聞こうともしない。これが現実と言われればそうかもしれないが、そのシビアな現実をこの映画は容赦なく描いている。
もし自分の所にサンドラが来たらどうするだろう?そんなことを考えさせられた。
ダルデンヌ兄弟の演出は、手持ちカメラによるドキュメンタリズムが徹底されている。シーンの臨場感も申し分なく、終始画面に惹きつけられた。軽快な場面転換、状況を紐解く話法もベテランらしく共に上手かった。
サンドラを演じるのはマリオン・コティヤール。悲壮と焦燥、絶望の淵に立たされた彼女の演技は、今回も素晴らしかった。
ただ、これだけの名優になるとどうしても既存のイメージが付いて回るのは致し方がない。マリオンほどの華のある美人では、今回の役にリアリティが足りず、そこはやはりもっと庶民的な女優にした方が良かったのではないか…という気がした。
これまでは無名な俳優を起用することが多かったダルデンヌ兄弟だが、今回は世界的に有名な彼女をキャスティングした所は新鮮である。しかし、純粋にドラマを噛みしめる上では邪魔になってしまった感がする。
尚、ラストは中々爽快感があって良かった。これだけの問題提起をしておきながら、こういう風にまとめるとは意外であった。得てしてこの手の社会派映画の場合、観客に考えて欲しいというメッセージを投げかける傾向にあるが、本作はそうではない。どちらかというと前向きな答えを出して終わっている。これにはいい意味で予想を裏切られた。