カオスなアングラ見世物小屋と化していく後半のテンションは異常!
「CLIMAX クライマックス」(2018仏ベルギー)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 新たな公演に向けてリハーサルを終えたダンサーたちが、雪が降り積もる山奥の廃ビルでパーティを開いた。振る舞われたサングリアにLSDが入っていたことから、ダンサーたちは次々とトリップしてしまい…。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) フランス映画界の鬼才ギャスパー・ノエ監督が贈るドラッグ・ムービー。
極彩色の映像と肉体美が織りなす激しいダンスシーン、狂気の行動に転じていく若者たちの姿をショッキングに綴った衝撃作である。
元々ノエはこうした暴力とセックスをテーマにした映画を作り続けている監督であるが、今回はそれがストレートに提示されており、極めて見世物映画的なカタルシスに満ち溢れたエンターテインメント作品になっている。ドラマ性を求めると完全に肩透かしを食らうだろう。
一応セルヴァという女性が主観を担う形になっているが、序盤はダンサーたちのインタビューに終始し、そこから中盤までは彼らのたわいもない世間話が続くだけである。その間、これといった主人公は特定することはできない。かなりエキセントリックな内容にも関わらず、観る側は彼らに感情移入することはできず、常に傍観者へと追いやられる格好となる。
と同時に、監督自身が「アルコールがいかに恐ろしいかを啓蒙するための映画なのです」と語っているように、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していく後半のパーティーシーンは呆気に取られることしきりで、自分が”傍観者”であることに安堵してしまった。
キャストは、セルヴァ役の女優を除き、すべて本物のダンサーということである。彼らのパフォーマンスは本作の魅力に一役買っている。圧倒的なのは序盤の1カット1シーンで撮られたダンスシーンである。見事にコントロールされたカメラの中で浩々と思い思いのパフォーマンスを披露しており見事だった。
また、後半の阿鼻叫喚の地獄絵図も1カット1シーンで撮られている。およそ30分以上は続く地獄のような惨状がリアルタイムに切り取られ、異様な緊迫感で息が詰まりそうになった。
カメラも見事である。メンバーが躍るダンスホールから、廊下、各々の寝室を自由自在に移動しながらそれぞれの悲劇をドライに捉えている。そこで繰り広げられるのは、失禁や嘔吐、自傷行為、暴行、堕胎、セックス等、やりたい放題である。まさに”地獄めぐり”と呼ぶにふさわしい追体験が味わえた。
また、画面が360度回転するのは当たり前で、終盤は完全に反転したままの状態が続く。流石に字幕まで逆さまになるのには苦笑してしまったが、これも監督の悪戯心溢れる演出だろうか?平衡感覚を失うトリッキーなカメラ演出は大胆だった。
このように、自分が観た過去のノエ作品と比べても、今回はスタイルが先鋭化された印象を強く持った。普通はどんなクリエイターでも年を取るとともに表現方法が丸くなるものだが、彼は違う。未だ進化し続けている監督だということが本作を見て改めて分かった。
いわゆる通俗的な映画に異議を唱えるべくノエの演出もすこぶる怪調である。序盤にスタッフロールが流れ、中盤でタイトルクレジットが出るという斬新さ。これまでにもスタッフロールを逆回転させたり、メッセージのタイポグラフィーを突然挿入することはあったが、今回も独特の演出は崩していない。
ただ、一見してエキセントリックの極みとも言えるような異常な映画であるが、よくよく考えてみると実は編集はかなり緻密に構成されているのではないか…とも思った。
本作に登場するダンサーは総勢22名もいる。最初は誰が誰か判別しかねるのだが、映画が進むにつれて個々の会話、やり取りの中から、それぞれのキャラクターが際立ってくるようになる。最終的には誰が誰とどういう関係にあり、どういう顛末を迎えたのかがきちんと理解できるように構成されている。これは周到に組み上げられた編集の賜物だろう。
尚、本作は実話を元にしているそうだが、どこまで真実に即しているのかは甚だ怪しい所がある。全員ラリっている状態でこの一夜の出来事を把握できている者がどれだけいたのかは定かではない。そういう意味では、真実は誰にも分からないわけで多分にフィクションが混じっているのではないかと考えられる。