一筋縄ではいかない異色作。こういった怪作も最近は珍しい。
「ボーダー 二つの世界」(2018スウェーデンデンマーク)
ジャンルサスペンス・ジャンルファンタジー・ジャンルロマンス
(あらすじ) スウェーデンの税関で働くティーナには、人間の感情を嗅ぎ分ける特殊な才能があり、入国審査でその技能を生かして働いていた。ある日、彼女は自分と同じような容貌の旅行者ヴォーレと出会う。本能的な何かを感じ、彼に自宅の離れを宿泊先として提供するのだが…。
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(レビュー) 一風変わった容姿と特殊能力を持った孤独な女性が、運命の人との出会いを通して自らの出自を探り当てていくファンタジー・サスペンス。
少しホラーテイストが入った作品であるが、原作・脚本が
「ぼくのエリ 200歳の少女」(2008スウェーデ)と同じ人だということで納得いった。北欧伝承の要素を持ち込みつつ、現実と非現実の境界に立つ者の葛藤を描いている点が共通している。異形の愛、人にあって人ならざる者の孤独を通して<常識>という価値観に揺さぶりをかけてくる作劇が今回も通底されている。
本作の主人公ティーナは、見るからに一種異様な風貌をした女性である。本人は染色体の異常のせいだと言っているが、まず何と言ってもこのビジュアルが強烈な印象を残す。しかも、彼女は他人の羞恥心や罪悪感といった感情を嗅ぎ取れる特殊能力を持っている。この特異な設定からして、この映画は他にはないユニークさがある。
そんな彼女の前に同じような風貌をした男ヴォーレが現れる。彼には、ある秘密があり、そこからティーナの出自も解き明かされていくようになる。
このように特異なビジュアル、エキセントリックな設定等のせいで、かなり風変わりな映画のように見えるかもしれない。しかし、根底にはティーナが自らの生きるべき道を探し当てていくドラマがしっかりと固定されているので、いわゆる自分探しの映画として大変見やすく作られている。一度作品世界に入り込んでしまえば、誰もが共感できる普遍的なドラマとなっている。
タイトルの「ボーダー 二つの世界」は、現実と非現実、男と女、自然と文明、善と悪、内面と外面、様々な意味が込められているような気がする。周囲から浮いた不確かな存在であるティーナは、自分は他者とは違うことを自覚している。そして、自分の住むべき世界はこの現実なのか?それともここではない別の世界なのか?と常に葛藤している。観る方としても彼女の心情にすり寄りながら、自然と物語を追いかけていくことができた。
脚本は「ぼくのエリ~」同様、今回も原作者自らが共同で手掛けている。原作者が入っているせいかテーマは明確に発せられており、シナリオ自体はよく練られていると思った。
監督はこれが長編2作目となるスウェーデン在住のイラン移民ということである。そのバックボーンを知ると、ティーナの疎外される者の孤独と葛藤には、監督自身の自己投影が少なからず入っているのかもしれない…と思えてくる。
昨今、移民問題は映画や文学、様々な分野で描かれているタイムリーなテーマである。本作を寓話として捉えるならば、そのあたりの深読みもできよう。
尚、個人的に最も感動したのは、ティーナとヴォーレの別れのシーンだった。このドラマは実は二人のロマンス映画でもある。ティーナは果たしてどんな思いでヴォーレとの別れを決断したのだろうか?その胸中を察すると、実に不憫に思えてならなかった。
更に、ラストのどんでん返しの”ある仕掛け”にも驚かされた。”ソレ”を目にした彼女はどう思ったのだろうか?これも実に不憫に思えてならなかった。
今作で唯一の難を言えば、児童虐待事件の捜査過程がやや単調に見えてしまったことであろうか…。児童ポルノや児童虐待等、いわゆる子孫や子供の意味するところは、実は作品を語る上では大きなカギとなっていく。それだけに事件を追いかけるティーナの心中には、もう少しじっくりとフォーカスしても良かったような気がした。
尚、ティーナとヴォーレの風貌は特殊メイクで造形されているということである。このメイクも中々良くできていて作品に十分の説得力を与えていた。