孤児院を舞台にした心霊ホラー。
「デビルズ・バックボーン」(2001スペイン)
ジャンルホラー・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 激しい内戦が続くスペイン。人里離れた荒野に建つサンタ・ルチア孤児院に12歳の少年カルロスがやって来る。彼に与えられたベッドは、ある日を境に行方不明となったサンティという少年が使っていたベッドだった。その日から、カルロスは奇妙な囁き声や物音に悩まされるようになる。
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(レビュー) 不気味な孤児院にやって来た少年の恐怖を、過去の悲しい事件を解き明かしながら描いた異色のホラー映画。
監督はメキシコからハリウッドへ渡り今や華々しい活躍をし続けているギレルモ・デル・トロ。本作では共同で製作・脚本も務めている。
今回は監督デビュー作である
「クロノス」(1992メキシコ)同様、ホラージャンルでありながら一抹の哀愁を漂わせた物悲しいドラマとなっている。いわゆるハードコアなホラー映画を期待すると肩透かしを食らう作品だ。
しかし、青春ドラマのような筋立ては中々よく出来ていて、ただ怖い、恐ろしいだけではない抒情性を味あわせてくれる点が中々面白い。凡庸なホラー映画とは一線を画した作品となっている。
物語は序盤から軽快に進む。カルロスの目線を通して、孤児院にまつわる凄惨な過去の事件、幽霊少年や周囲の少年たちとの交流、内戦で混乱をきたす時代背景までもが洗練された形で分かりやすく描かれている。
とは言うものの、当時のスペインの状況をある程度知ってないと理解できない部分があるかもしれない。この頃のスペインは動乱の時期にあり、そのあたりのことはケン・ローチ監督の「大地と自由」(1995英スペイン独)や「蝶の舌」(1999スペイン)、ギレルモ監督の過去作
「パンズ・ラビリンス」(2006スペインメキシコ米)等でも描かれていた。
できれば予備知識を入れてから観たほうが理解しやすいだろう。
本作で最も印象に残ったのは、カルロスと少年たちの交友を描いた、いわゆる青春ドラマの部分だった。
新入りのカルロスは早速ボス的存在の少年にいじめられるのだが、あることをきっかけに周囲から仲間として認められていくようになる。殺伐とした時代に育まれる彼らの交友は、こんな時代だからこそ余計に輝いて見えるし、自ずと心洗われる物がある。
そして、そんな純粋な少年たちとは対照的に、この映画の大人達はどこまでも薄汚く些末に描かれている。
孤児院の院長は一癖ある中年男で隣室の若いメイドと性的関係に及んでいる。孤児院で働く青年ハチントは利己的な男で、やがて非道極まりない行動を起こしてしまう。
この子供対大人の構図が本作のテーマを構成する重要な要素となっている。
つまり、もはやギレルモ監督の一貫した思想なのだが、彼は常に戦争の犠牲に晒される子供たちや研究機関の実験台になるモンスターといった無垢なる者の側に立って物語を描き続けているのである。本作ではカルロスたち少年の側に立って、大人達の利己的な欲望や醜い争いをシニカルに描き、ある種痛烈な批判をも浴びせている。理不尽な世界に立ち向かう子供たちの勇気を讃えていると言ってもいいだろう。
映画は最後に過去の凄惨な事件の全容が明らかにされ、カルロス達少年の運命も救われることとなる。だが、そこに残るのは苦々しい後味のみで爽快感はほとんどない。過去は書き換えられないし、そう簡単に過去の傷は癒せないというメッセージが感じられた。
と同時に、争いと戦争が絶えないこの世界への鎮魂も感じられ、カルロスはこの孤児院での体験を通して一歩大人へと成長したことも実感された。
ギレルモ監督の演出は、前作「クロノス」よりも明らかに洗練されている。元々、前作は製作費の面で苦しいのがありありと見て取れたので、それに比べると今回は大分余裕ができたのだろう。カルロスが目撃する幽霊の少年のビジュアル等、ポストプロダクションにもかなりの手間をかけているように思った。
また、キッチュな照明を活用した画面作りもこの辺りから堂に入ってきている。彼の独特な映像センスはほぼ今回で確立されたと言っていいだろう。
ちなみに、過去の事件の舞台となるのは孤児院の倉庫にある水槽なのだが、このプロダクションデザインは後々の
「シェイプ・オブ・ウォーター」(2017米)の研究室を彷彿とさせる。「シェイプ~」自体、過去のギレルモ作品の集大成のような作品であるが、その要素を本作からまた一つ発見することができた。