やや間延びしたテンポながら映像、演技共に素晴らしい出来栄え。
「アイリッシュマン」(2019米)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 1950年代、マフィアのボスに見初められたトラックドライバー、フランクは、汚れ仕事に奔走しながら固い信頼を受けて徐々に裏社会でのし上がっていった。ある日、ボスの紹介で全米最強の労働組合指導者ジミー・ホッファを紹介される。フランクは彼の元で様々な仕事をこなすようになるのだが…。
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(レビュー) アイルランド系移民の波乱に満ちた人生を、当時の社会情勢を交えながら描いた実録犯罪映画。
監督はM・スコセッシ。「グッドフェローズ」(1990米)、
「カジノ」(1995米)等、過去に数々のギャング映画を作ってきた名匠が、齢80を迎えようとするこの時期に集大成とも思えるようなギャング映画を作った。アイルランド系アメリカ人を題材にした所は「ディパーデット」(2006米)との相関も認められる。
とはいえ、全体的にはかつての快活なトーンは抑えめで、哀愁に満ちた作りになっている。そこはさすがに老いなのだろう。
まず、フランクの成り上がりの半生を描く前半はかなりエネルギッシュで面白く観れた。それこそ過去の傑作を彷彿とさせるような流麗な語り口がスコセッシの健在ぶりをアピールしている。
しかし、ジミーが苦境に立たされる後半からドラマの芯がブレはじめ息切れ感を起こしてしまう。物語の視座がジミーの方に比重が置かれ、その間フランクはボスとジミーに挟まって悶々と苦悩するばかりである。これでは前半から受け継いだドラマも停滞してしまう。
更に、今回の物語は現在の老いたフランクが若かりし頃を回想するという構成になっている。これ自体は悪くはないのだが、問題は回想ドラマが終了してからの終盤の展開で、これが長く感じられた。
しかも、フランクが娘に冷たく拒絶されるという、いかにもな内容である。スコセッシは過去に「ミーン・ストリート」(1973米)や「最後の誘惑」(1988米)等、宗教をテーマにした映画を撮っているし、自身も敬虔なカトリックの出で少年時代は司祭を目指していたという。そんなスコセッシであるからして、ここには当然フランクの贖罪追及という意味が込められているのだろう。確かに彼の一貫したテーマを汲み取ることができる。しかし、それにしても少々かったるい。
本作は上映時間が3時間半弱もある。正直なところ流石にこれは長すぎると感じた。後半のフランクの葛藤をもっとすっきりとまとめ、物語の視座をシンプルにすればこれほどの時間にはならなかったはずである。
尚、本作は製作にNetflixが噛んでいる。ご存じのようにNetflixは配信サービスなので特に映画の長さについて条件などないのだろう。映画館でかける場合は回転数の問題があるのでプロデューサーはなるべく短くしたがるものである。しかし、配信作品の場合はそうした前提がない。
キャストは、スコセッシ映画の常連に加えベテラン勢が揃えられている。
フランク役のロバート・デ・ニーロ、ジミー役のアル・パチーノ、フランクのボス役のジョー・ペシ。更にはハーヴェイ・カイテルといった過去の傑作ギャング映画の名優たちが一堂に揃う豪華さである。
回想場面ではそれぞれに顔をCGで若く作り直していて、これが実に自然で驚かされた。ただし、演技の所作はやはり年相応で、若かりし頃のキレが感じられない。
また、本作はケネディ家や労働組合とマフィアとの関係、更にはカストロ政権下におけるキューバとの関係等、当時の政治や社会情勢についても深く突っ込んで描写している。作品に厚みとリアリティをもたらしているという意味では奏功していた。あまりにもドラマチックなフランクの人生であるが、すべては実際に起こった事件であることが映画を観終わって再認識される。
プロダクションデザインやカメラについても当時の時代を見事に再現していて感心させられた。
尚、本作で最も印象に残ったのは、ジミーの妻が車のエンジンをかけようとしてかからなかったシーンである。その手前で散々車に爆弾が仕掛けられていたので、ここはハラハラドキドキさせられた。スコセッシの演出の妙技が光っていた。