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この世界の(さらにいくつもの)片隅に

オリジナル版から30分の新作カットを追加した改訂増補版。
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「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(2019日)星5
ジャンルアニメ・ジャンル人間ドラマ・ジャンル戦争
(あらすじ)
 昭和19年、広島市から海軍の街・呉に嫁いできた18歳のすずは、夫の周作とその家族に囲まれながら徐々に新しい生活に慣れてきた。ある日、道に迷っていたところを遊女のリンに助けられる。これをきっかけに二人は仲良くなっていくのだが…。

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(レビュー)
 2016年に製作された「この世界の片隅に」(2016日)に約30分の新作を追加して作られたアニメーション映画。

 自分はすでに前作を観ていたので、今回は何が追加されているのか?そこを中心に鑑賞した。

 まずはっきりと分かるのは、すずとリンのエピソードがかなり多く追加されたことである。前作では数シーンしかなかった二人の交流が今回は大幅に増えている。結果として、これらが追加されたことによって、前作で不透明だった周作とリンの関係がはっきりと分かり、大変飲み込みやすい映画となった。
 また、すずの妻としての嫉妬も掘り下げられたことで、前作よりも更にエモーショナルなドラマになったような印象を受けた。

 聞けば、今回の新作部分は、こうの史代の原作漫画にもあったそうで、監督の片淵監督は前回泣く泣くカットしたそうである。前作同様、今回もクラウドファンディングによって資金が集められたそうだが、こうして自分の思い描いていたパーフェクトな形で作品を世に送り出すことができたことは作家冥利に尽きるのではないだろうか。ここまで多くの人々に後押しされた作品もそうそうないだろう。そういう意味では「この世界の片隅に」という映画は大変幸せな作品だと言える。

 これまでにも監督本人の手によって再編集された、いわゆる完全版(ディレクターズカット版)と言われる映画はたくさん作られてきた。中には成功しているものもあれば、逆に失敗しているものもある。

 例えば、あの名作「ニュー・シネマ・パラダイス」(1989伊仏)にも完全版(ディレクターズ・カット版)は存在する。オリジナル版は映画賛歌的なメッセージを押し出した作りだったが、完全版では青年に成長した主人公のロマンスパートが大幅に追加され、ある種青春ドラマのような趣になっていた。どちらがいいかは好みの問題であるが、自分はあの作品は愛すべき<映画>への郷愁を謳い上げた作品として受け止めていたので、どうしても完全版は冗長という感じを持ってしまった。

 SF映画の傑作「エイリアン2」(1986米)にもディレクカーズ・カット版は存在する。こちらは、かつてリプリーに娘がいたというエピソードが追加されたことで、彼女の過去がクローズアップされた。これが追け加えられたことで、その後にリプリーがエイリアン・クイーンと戦うシーンはよりエモーショナルなものとなった。こちらは成功例と言えるだろう。得てして蛇足になりがちなディレクターズ・カット版だが、中にはこうした好例もある。

 そこで今回の「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」は、果たしてどちらかと言うと、個人的には見事に成功しているように思った。

 前作はすずの戦争追体験ドラマとしての側面が強かった。それはそれで観ているこちら側に戦争の悲惨さ、残酷さが伝わってきて、改めてその無為性がひしひしと実感された。
 今回はすずとリンの交友が大幅に追加された。それによって、すずの周作に対する複雑な感情がクローズアップされ、すずという一人の女性の成長というテーマ、夫婦愛というドラマが前面に出てくるようになった。

 もちろん反戦というテーマ自体に大きな変化はない。ただ、すずの内面を掘り下げたことで、過酷な戦時下における女性の生き方に厚みが増したような気がする。少なくとも自分は全く蛇足という感じを受けなかった。むしろ、観客により親切に作られているような気がした。

 もう一つ、今回大きく追加されたのは、リンと同じ女郎屋で働くテルのエピソードである。すずと彼女の直接的な交流は少ししか描かれていないが、すずの慈しみ深い愛を表現する上では効果的だった。
 今回の改訂増補版とも言うべきディレクターズ・カット版を製作した狙いの一つは、タイトルにある(もうひとつの)という言葉の中に隠されているような気がする。
 前作では、すずだけに焦点を当てて作られた「この世界の片隅に」だったが、今回はテルやリンといったすずとは違う人生を歩んだ女性にも焦点が当てられている。彼女らの存在が、この(もうひとつの)という言葉の中には含まれているのではないかと考える。登場シーンこそ、それほど多くはないが、テルの生き様も(もうひとつ)の人生として観ているこちら側に強く印象に残った。

 また、終盤に台風のエピソードが追加されていることも大きなポイントだと思う。これは実際にあった歴史的災害ということである。昨年、日本は各地で大きな台風被害を被ったことは記憶に新しい。もしかしたら監督はそこを狙ってこのエピソードを挿入したのかもしれない。ドラマ上絶対に必要であるかと言われると、そこまでの必要性は感じなかったが、昨今の台風や地震による自然災害に対する片淵監督なりの憂いが感じられた。
[ 2020/01/28 00:18 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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