「37セカンズ」(2019日)
ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 脳性まひで半身不随になった23歳のユマは、母に支えられながら車いすの生活を送っていた。現在は親友の売れっ子漫画家のゴーストライターをしている。しかし、彼女の名前が表に出ることは一切なかった。鬱屈した感情を抱えていた彼女は独立したいと思いアダルト漫画専門誌に自作を持ち込む。しかしセックスの経験がないという理由で彼女の漫画は編集長から一蹴されてしまった。その言葉に発奮したユマは出会い系サイトを使って何人かの男性とデートをするのだが…。
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(レビュー) 出産の時に身体に障害を負い車いすの生活を送ることになってしまったヒロインが、過保護な母親から独立して自らの意志で人生を切り開いていく感動の物語。
主人公ユマを演じるのは一般のオーディションから選ばれた佳山明という新人である。自身が脳性麻痺の障害を負っており、その境遇が本作のユマというキャラクターに説得力をもたらしている。本作のように本物の障碍者が障碍者の役を演じるというのは珍しいのではないだろうか。
かつてはプロの俳優が障碍者を演じていたものである。
「名もなく貧しく美しく」(1961日)などは小林桂樹、高峰秀子という名優のおかげもあり実に感動的なメロドラマになっていた。しかし、本物の障碍者ではない俳優には限界がある。どうしても「演じているんだ」という先入観があるため、どこまで行ってもフィクションの域を出ないのである。
その点、本作は本物の障碍者が主人公を演じている。物語はフィクションではあるが、役柄に対する説得力という点においてはプロの俳優にはないリアリティがある。この点だけでも本作は実に稀有な作品になっていると言える。
しかも、この手の作品は往々にして安易なお涙頂戴モノになりがちなのだが、製作サイドは決してそのような志の低い姿勢で映画を作っているわけではない。そのことは映画の冒頭からはっきりと宣言している。障碍者の入浴シーンをここまで赤裸々に描写した所に今作の本気度が伺える。
物語はオーソドックスな青春ストーリーとなっている。母親に依存していたユマは様々な困難を乗り越えて新しい世界へ羽ばたいていく。そして、その過程で自らの出自を知り、それによって彼女は人間的に成長していく…というものである。誰でも楽しめる王道なストーリーと言えよう。
但し、シナリオ上、幾つかご都合主義な面があり、決して完成度が高い作品ではないと思った。
例えば、渡辺真紀子扮する歌舞伎町の女性や彼女の運転手は、ユマをどこまでも優しく包み込む理想的キャラである。人物像にリアリティが感じられない。
同様のことは、出会い系で知り合ったオタク男にも言える。カリカチュアがきつ過ぎて現実味が感じられなかった。
アダルト漫画雑誌の編集長についても然り。余りにも美人過ぎるキャリアウーマンタイプで現実にはいなそうである。
また、後半のタイに行くクダリは流石に突飛すぎてついていけなかった。パスポートや旅費はどうしたのだろうか?
売れっ子漫画家のその後や彼女とユマの関係が放りっぱなしなのも、観終わって気になってしまった。
このように色々と突っ込み所がありすぎて、残念ながら作品としての完成度には不満が残った。
監督・脚本は新鋭のHIKARIという人である。
演出はカラフルでポップで中々は手練れていると思った。一方、先述のようにシナリオに関してはまだ未熟な点が多いと感じた。
ただ、こうした弱点はあれど、やはりヒロインを演じた佳山明の存在と物語的な美しさには涙するしかない。理屈を凌駕する魅力と言えばいいだろうか…。穴は多い作品かもしれないが、そんなことがどうでも良くなってしまうほど、愛すべき映画になっている。
自分らしく生きること、自分で良かったと思えることの素晴らしさを、改めて気付かせてくれる良質な映画である。