「あゝ、荒野 前編」(2017日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルスポーツ・ジャンルSF
(あらすじ) 西暦2021年、東京では爆破テロが頻発し、日本は選択徴兵制度が施行されていた。元ヤクザの新次は少年院を出所後、裏切り者である裕二への復讐に燃えていた。ところが、裕二がプロボクサーになっていたことから、彼もボクサーの道を歩むことになる。同じ頃、吃音症に悩む在日二世の建二は父親から暴力を受けていた。荒んだ暮らしから逃れるようにして健二もボクサーの道を歩むのだが…。
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(レビュー) 二人の青年が数奇な運命に呑みこまれながら固い友情で結ばれていく青春スポーツドラマ。
寺山修司の原作の映画化である。原作は未読だが、おそらく近未来という設定などは本作オリジナルだろう。劇中にはドローンやyoutubeも出てくる。これらは原作が書かれた時代にはなかった代物である。
尚、前編は2時間40分弱ある。後編も2時間半近くあり、前後編合わせると5時間を超える大作となっている。更に、完全版と称した長尺版も存在するということで、そちらはネットで公開されたようだ。
ただ、大作であることは間違いないのだが、ドラマ自体は非常にミニマルである。
新次と健二、彼らに関係する縁故者、彼らが世話になるボクシングジムの関係者。物語はその中だけで展開されていく。
まずは何といっても新次と健二のキャラクターギャップが面白かった。二人のボクシングスタイルも差別化されていて、彼らが切磋琢磨しながら熱い友情で結ばれていく様は終始面白く観れた。
更に、彼らのトレーニングを指導するボクシングジムのマネージャーも個性的で面白いキャラクターだった。片目が見えない元ボクサーという設定で、裏では犯罪稼業に手を染めながら貧乏ジムを切り盛りしている。
他にも様々なキャラが登場してくる。
中でも、新次の恋人・芳子のバックストーリーには注目したい。彼女の過去には東日本大震災の影響が色濃く反映されており、そこには当然製作サイドの特別な思いが込められているのだろう。芳子はどこか影のあるキャラで痛々しく感じられた。
このように本作は近未来という設定であるが、現代社会を映した合わせ鏡のようなドラマとなっている。爆破テロも徴兵制も然り。今のところはないが、昨今の社会的気運を考えるとそう遠くない未来には起こるかもしれない…という危機感を訴えている。
他にも、本作には自殺防止イベントを主催するコミュニティが登場してくる。社会からドロップアウトした健二の父は、このコミュニティに懐柔されていくようになるのだが、これも多くの自殺者を生んでいる現代社会の闇の部分を表している。
ただ、個人的にはこれはストーリーのテンポを悪くしているような気がした。いかんせん新次と健二のメインのドラマにあまりリンクしてこないのが残念である。そのため今一つ存在意義が感じられなかった。
また、逆にこれは余りにも唐突過ぎると感じた部分もある。それは新次の生き別れの母の身顕しについてである。ここまで偶然の再会をお膳立てされると、運命のいたずらという言葉だけでは片付けられないご都合主義を感じてしまう。ここはもう少し捻りが欲しかった。
キャストでは新次を演じた菅田将暉の熱演が素晴らしかった。野犬のようにギラついた眼差しが新次の生い立ちを鮮烈に印象付けている。鍛え抜かれた肉体にも役作りに対する本気度がうかがえた。
健二役は
「息もできない」(2008韓国)で監督・主演を果たしたヤン・イクチュンが演じている。こちらも吃音症という難役を好演している。
ジムのオーナー役を演じたユースケ・サンタマリアの妙演も中々良かった。