「友情」(1975日)
ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 大学生の宏は恋人・紀子と都内の安アパートで同棲生活を送っている。しかし、二人の交際は親に禁じられていた。そんなある日、宏は山奥のダムの工事現場でアルバイトをすることになった。そこで彼は源さんというベテラン工員と親しくなるのだが…。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 育ちも世代も違う男たちの友情をユーモアとペーソスを交えて描いた人間ドラマ。
本作の見所は何と言ってもキャストだろう。源さん役は渥美清、宏役は五代目中村勘九郎。この両雄が同じ画面に並び立つというのが売りである。中々貴重な作品ではないだろうか。
ただ、物語自体は決して目新しいわけではない。ごくありふれた展開に、ごくありふれたテーマで、このキャストを抜きにしたら正直凡作と言わざるを得ない。
監督・脚本を務めたのは宮崎晃。彼は山田洋次監督の下で「男はつらいよ」シリーズの脚本を手掛けていた人である。なので、いかにも松竹印、安定感のあるドラマ作りに徹している。良く言えば、誰にでも受け入れやすい人情話として堅実にまとめられている。悪く言えば、せっかくの魅力的なキャストを上手く使いきれていない…といった感じである。
そんな本作であるが、先述の通りやはりメインキャスト二人の掛け合いは中々面白く観ることができた。
年の差の離れた宏と源さんが固い友情で結ばれていく過程は観てて微笑ましい。全体的に明朗な語り口で進行するのも良い。安心して観ることができる。
但し、朗らかに見れるのは中盤までで、後半から源さんの過去が露わになることによって、徐々にシリアスなトーンが幅を利かせるようになっていく。観る人によっては好き嫌いが分かれそうである。
これについては自分も少々戸惑いを覚えたが、最終的には源さん役、渥美清のシリアスな演技に強引に持っていかれた…という感じがした。
ある意味では、もう一つの「寅さん」のケリの付け方と言うことができるのではないだろうか。
本家「寅さん」シリーズでは、寅さんは毎回失恋を重ねている。あれだけ振られ続けているのに全然懲りない所が寅さんの良い所であり、愛すべき所である。しかし、その心中を察すると実に不憫なことこの上ない。その心の内を表面化したのが今作の源さんだったのではないだろうか。
山田洋次監督の下で実績を積み上げてきた宮崎晃監督だからこそ描けた”もう一人の寅さん”という感じがした。