「マタンゴ」(1963日)
ジャンルSF・ジャンルホラー
(あらすじ) 7人の若者を乗せたヨットが嵐で無人島に漂着した。そこには一艘の難破船が漂着していたが、乗員の姿はどこにもなく、ただ奇妙な形状のキノコが群生しているのみだった。やがて食料の残りが少なくなり、彼らは恐る恐るそのキノコを食し始める。
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(レビュー) 無人島に漂着した若者が次々とキノコ人間と化していくSFホラー映画。
ゴジラシリーズのヒットなどで知られる円谷英二が特技監督を担当しているが、子供が見て楽しめる怪獣映画というよりも、大人が見て楽しめるホラー映画となっている。そこで繰り広げられる愛憎渦巻く人間模様も含め中々面白く観ることが出来る作品だった。
尚、本作は「美女と液体人間」(1958日)、「電送人間」(1960日)、
「ガス人間第一号」(1960日)という東宝特撮の「変身人間シリーズ」の番外編として位置づけされている。前3作も確かに子供よりもアダルト向けに作られたSFホラーだった。
物語は序盤がやや退屈するが、無人島に到着して以降は引きこまれた。登場人物のキャラ付けは中盤以降きっちりと確立され、個々の対立、駆け引き、内紛が緊張感タップリに描かれている。色欲に飲まれてしまう人間の愚かさ、高度経済成長期を投影したであろう格差社会の象徴といった暗喩も嗅ぎ取れ、後に松竹が製作した
「吸血鬼ゴケミドロ」(1968日)に似た面白さが感じられた。
監督は本多猪四郎。原作は外国の短編小説で、それをSF作家・星新一が原案にまとめ上げている。
(※訂正:実際には星新一はラストシーンに意見を出しただけでほぼノータッチということである)
先述したように漂着するまでの演出が安穏としており、観てて少々退屈するが、難破船を調査するシーンあたりから徐々にホラー・タッチが横溢し魅了される。特に、カビとキノコだらけの船内を探るシークエンスにおける”焦らし”の演出が良かった。
また、プロダクション・デザインも秀逸で、非日常的空間を演出したサイケデリックな色彩が印象に残る。赤や黄色を基調とした原色を刺激的に多用しながら、見る者を不安と恐怖に包み込み、何とも不気味な感覚に襲われた。
映画中盤は、個々の対立ドラマを中心しながら、キノコ人間(マタンゴ)の正体を暴いていくサスペンステイストで進行する。
見せ所は何と言っても、マタンゴのデザインである。異形の怪物としか形容しようがない独特な造形が強烈なインパクトを残す。変身途中の状態だと尚更不気味で、ヘドロ状のドロドロとしたデザインで、子供が見たらトラウマ必至の気色悪さである。
尚、かのスティーブン・ソダーバーグ監督は幼少期に本作を観て、30代頃までキノコを食べられなかったと語っている。
もっとも、完全にキノコ人間になってしまうと、途端に着ぐるみ感満載でどこか愛嬌も感じられる。この辺りの工夫はもう少しあっても良かったように思った。
特撮を担当したのは円谷英二。本作はこうした等身大の怪獣なので、スペクタクルな特殊撮影はほとんどなく、そういう意味では大変地味である。ただ、海岸に漂着した難破船の遠景、霧に包まれた島を捉えたショットなどは、中々のスケール感が感じられ見応えがあった。
そして、本作で忘れられないのは、何と言てもラストである。人間の業、欲心を嘲笑するかのように大胆な幕引きを敢行し観る側に深い余韻を残す。