「サバイバルファミリー」(2017日)
ジャンルコメディ・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 東京に暮らす鈴木家は父・義之、妻・光恵、長男・賢司、長女・結衣からなる、ごくありふれた一家である。しかし、義之は仕事一筋で家庭のことを一切構わない人間で、家族の仲はバラバラだった。そんなある日、電気、ガス、水道、更には自動車までもが原因不明の異常現象で止まってしまう。復旧の見通しがないまま一家は東京を離れることを決断するのだが…。
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(レビュー) 原因不明の異常事態ですべてのライフラインがストップしてしまったことで、平凡な家族がサバイバルを余儀なくされてしまうパニック・コメディ。
最初はよくあるパニックムービーかと思いきや、さにあらず。この映画はバラバラだった家族の絆の再生を描いたホームドラマとして実にしたたかに作られている。合理化された現代社会に対するアイロニー、ブッラク・ユーモアもそこかしこに感じられ、気軽に見れるコメディとは一線を画した中々の佳作になっている。
監督・原案・脚本は矢口史靖。軽妙なタッチを得意とする氏らしい演出が横溢し、時に笑いを、時にチクリと突き刺さるような皮肉で一家のサバイバルをユーモラスに描いている。前作
「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」(2016日)と比べるとパワフルさという点では見劣りするが、氏の資質は存分に出ている。
まず、序盤のパニックシーンから素晴らしい出来である。かなりブラックなテイストで演出されており、氏のデビュー当初のカラーが感じられた。今でこそ大衆向きな作品を量産する職人監督として活躍しているが、初期時代には結構危険なネタを連発してた。それに少しだけ戻ったような感じを受けた。
その一方で、この異常事態には先の東日本大震災も連想させられた。鈴木家の奔走劇は確かに滑稽に映るが、同時に笑ってばかりはいられない深刻さもうかがえる。
コンビニから食料が消え、水を求めて人々が行列を成し、ろうそくだけで夜を過ごすという非日常は、正に我々が東日本大震災で体験してきたことである。それを思うと、ここで描かれるパニックシーンにはリアルな恐ろしさを感じてしまった。
便利に慣れてしまった人間が裸一貫で外に出された時、果たしてどうやって生き延びていくのか?という命題を突きつけられているな感じを受けた。前作でも同様の文明批判的なメッセージは投げかけられていたが、今回はまた違った形でそれが強く押し出されている。
そんな中、後半に登場する大地康雄演じる農夫は、このドラマのキーパーソンとして強く印象に残った。彼は都会暮らしだった鈴木家とは正反対に自給自足な生き方をしている。自然と共存するような暮らしを送っている。
鈴木家は彼と関わり合いを持つことで、人間本来の生き方、つまり大切なものは『物質』ではなく『心』だということを教わる。こう書くと非常に青臭いが、矢口監督はこれを上手くエンタテインメントの形に乗せて描いている。したがって、説教じみた所がなく、自然と観ているこちら側にテーマが入ってくる。
映画は後半に入ってくると徐々に悲壮感を増していくようになる。笑いも少なくなりサバイバルがシビアになっていく。
このあたりはやや監督の迷いが出たかな?という印象を持った。テーマを追求するためにドラマの引き締めにかかったのだろうが、それまでの緩いトーンとは別物になっていく。
ただ、ラストは清々しく締めくくられているので、決して後味が悪いわけではない。このあたりの捌き方も実に上手く、結果、映画の鑑賞感も満足いくものとなった。
1点だけ不満を挙げるとすれば、離散した鈴木家が再会を果たす終盤の展開だろうか…。
シリアスなトーンからコメディへの切り替えに違和感を持った。かなりご都合主義であるし、正直言ってここまで安易な再会だと素直に感動することはできない。もっと自然な形で再会してほしかった。