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皇帝のいない八月


「皇帝のいない八月」(1978日)星3
ジャンルサスペンス・ジャンル社会派
(あらすじ)
 盛岡でパトカーが機関銃で銃撃されるという事件が起きる。内閣情報室の利倉は陸上自衛隊、刑務部長の江見に捜査の協力を仰ぐ。軍事クーデターの可能性を考慮した江見は、早速自衛隊内外の不穏分子の洗い出しを始める。リストアップされたのは江見の一人娘、杏子の夫でかつて自分の部下だった藤崎だった。その頃、杏子の元恋人で新聞記者の石森は取材を終えて博多から東京行きの寝台列車に乗ろうとしていた。そこには藤崎が率いる自衛隊員の一団が同乗していた。

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(レビュー)
 自衛隊の軍事クーデターを描いた社会派サスペンス作品。同名原作(未読)の映画化である。

 架空の物語であるが、現代にも通じる社会の閉塞感、腐敗した政治の裏舞台が垣間見れるのが面白い。

 但し、藤崎の武力闘争はリアリティ云々を言うと流石に荒唐無稽な感は否めない。
 第一に藤崎は寝台列車に乗って博多から東京へ向かうが、万が一の場合を考えれば民間人と一緒に移動することは得策ではないだろう。実際に映画が製作されるにあたって、このずさんな計画は指摘されたらしい。しかし、元々の原作がそうなっていることもあり、というかそこがサスペンスの要であるので変えることは出来なかったのだろう。

 また、ドラマ面でも各人物の心情があやふやで感情移入するまでに至らなかった。
 杏子は藤崎に抱かれて彼の妻になるが、一体どこに惹かれたのだろうか?石森も杏子を忘れて今では愛すべき家庭を築いているが、杏子との再会にまんざらでもなさそうである。利倉とバーのママがかつて恋仲にあったという過去が一瞬だけフラッシュバックされるが、ドラマ的にはまったくの不要であり、その説明もない。ただ単に太地喜和子の濡れ場をサービスショットとして入れたかったけのようにしか思えないのだが…。

 このように全体的にとっ散らかった印象の作品で、完成度という点ではやや劣る。

 監督、共同脚本は山本薩夫。「真空地帯」(1952日)「不毛地帯」(1976日)「金環食」(1975日)といった社会派大作から「華麗なる一族」(1974日)「台風騒動記」(1956日)等のエンタテインメント、「荷車の歌」(1959日)のような独立系の硬派な作品も撮り上げる巨匠である。彼は”赤いセシル・B・デミル”と言われるように左翼思想を持った作家だったが、そんな彼が本作を撮ったことは実に意外だった。軍事クーデターという右傾化思想は、それまでの彼の思想とは全く相反するものである。

 とはいえ、演出は軽快にまとめられており、最後までストレスなく観ることが出来た。結構本人的には乗り気でやっていたのではないだろうか。このあたりは流石にベテラン作家といったところである。

 但し、後半の電車内と内閣情報室のカットバックは余り上手く噛み合っておらず今一つ盛り上がりに欠けるのは残念だった。また、クライマックスのスローモーション演出も抒情性を過度に演出していて少々いやらしい。

 予算が少ないせいもあろう。新幹線のミニチュア撮影が行われているが、これも同時代に作られた「新幹線大爆破」(1975日)に比べると貧相だ。列車内のモブの少なさにも予算の少なさがうかがえる。

 一方、劇中にはチリの軍事クーデターの記録フィルムが出てくるが、そこに石森と杏子を上手くはめ込んだ点は見事だったように思う。まるで本当にその場に居るかのように違和感なく観れた。

 このように色々と不満に思う所もあるのだが、しかし現代の日本にもし軍事クーデターが起こったら?というシミレーションとしては中々に興味深く観れる作品である。
 また、社会派作家・山本薩夫の面目躍如が堪能できるという点においても、まずまずの異色作となっている。
[ 2020/04/15 00:10 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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