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淵に立つ

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「淵に立つ」(2016日)星3
ジャンルサスペンス
(あらすじ)
 郊外で小さな金属加工工場を営む利雄は敬虔なクリスチャンの妻・章江と10歳になる娘・蛍と平穏な暮らしを送っていた。ある日、利雄の旧友・八坂がやってくる。利雄は章江に断りもなく、最近出所したばかりだという彼を雇い入れ自宅の空き部屋に住まわせるのだが…。

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(レビュー)
 ある平穏な一家に起こる事件を独特のタッチで描いたヒューマン・サスペンス。

 監督・脚本は「歓待」(2010日)「ほとりの朔子」(2013日)「さようなら」(2015日)の深田晃司。人間ドラマにユーモアとシニカルな味付けをするのが特徴の作家である。国際的にも注目され、本作はカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞した。

 ストーリーは、ある平和な一家に突然ミステリアスな人物がやってきて周囲に不穏な空気をまき散らす、という筋立てで進行する。こういったストーリー自体は決して斬新というわけではない。それこそ深田監督の過去作「歓待」のシチュエーションとまったく同じである。また、三池隆史監督が撮った「ビジターQ」(2000日)、そして日本映画史に残る傑作「家族ゲーム」(1983日)も、このタイプに入るプロットと言える。

 ただ、本作は中盤から予想外の展開に入っていく。八坂を含めた一家が揃ってキャンプに行くのだが、ここから物語は一気に加速する。八坂の突然の豹変。それに続く彼の衝撃の”凶行”は想像の遥か斜め上をいくものだった。

 この後、映画は一気に時間が経過して数年後に飛ぶ。八坂が起こした”凶行”のせいで平和だった家族はバラバラになってしまうのだ。何とも悲惨で観てて非常に辛かった。ただ、こうなってしまったそもそもの原因を考えると、これは罰が当たった…という言い方もできる。端的に言えば、悲劇の連鎖と復讐の虚しさ…ということになろうか。

 正に深田監督らしい、シニカルでアンビバレントな結末になっていて、観終わった後に色々と考えさせられた。

 この映画でもう一つ面白いと思ったのは、章江のクリスチャンという設定である。この設定があることで、この復讐のドラマにはどこか宗教的な意味合いが帯びてくる。

 例えば、章江は簡単に八坂を信頼してしまうが、それは彼女の中で彼を聖人化したいという願望があったからに相違ない。つまらない夫・利雄、退屈な日常からの逃避とも解釈できるが、それ以上に彼女の根底には「信じる者は救われる」的なキリストの教えがあったからだろう。
 あるいは、章江は八坂に身も心も許してしまうが、普通の感覚で見れば彼女のこの急激な心理変化は説得力に欠けると言わざるを得ない。しかし、彼女が敬虔なクリスチャンだったというバックボーンがあると、この心理変化もなるほどと思えてくる。聖母マリア的慈愛の精神が章江の中にはあったのだろう。

 このような宗教的モティーフを鑑みれば、今回の復讐のドラマにはどこか虚しさも覚えてしまう。人間の愚かさ、救われぬ魂といった非常に教義的な教えが読み取れた。

 深田監督の演出も相変わらず冴えわたっている。独特のオフビートなトーンは健在で、ヒリヒリとした緊張感もここぞという場面を大いに盛り上げている。

 例えば、映画の後半に孝司という青年が登場してくる。彼にはある秘密があり、後半のドラマのキーマンとなっていく。その彼が利雄から突然平手打ちを食わされるシーンがある。利雄の怒りも分からないではないが、孝司にしたら実に理不尽極まりない。このシーンには爆笑してしまった。
 また、利雄が孝司の後姿をじっと見つめるシーンが何度か出てくるが、これにはゾワゾワするような不穏な感覚を覚えた。この辺りのさりげない演出を観ていると改めて深田監督の手練には唸らされてしまう。

 キャストでは、章江を演じた筒井真理子の熱演が光っていた。前半は気立ての良い貞淑な妻といった雰囲気を貫くが、事件後の後半からは徐々に精神的に追い詰められ狼狽していく。このギャップが素晴らしかった。
[ 2020/05/01 00:23 ] ジャンルサスペンス | TB(0) | CM(0)

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