「トレジャーハンター・クミコ」(2014米)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) クミコは東京でOLをしながら鬱屈した日々を送っていた。そんな彼女の唯一の心の支えはアメリカの映画「ファーゴ」だった。冒頭に出る「実話に基づく」という言葉を信じて彼女は劇中で埋めた大金入りのブリーフケースを探しに単身アメリカへと飛ぶ。
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(レビュー) 実話を元にしたストーリーと前置きされているが、これは少々誇張した表現のように思う。後で調べて分かったのだが、本作のクミコのモデルとなった女性が本当に「ファーゴ」(1996米)を信じて渡米したかどうかは不明ということである。実際には別れた恋人に未練があってアメリカへ渡ったということらしい。そこから考えると、これはあくまで都市伝説を元にして作られた作品ということになる。
とはいえ、そうした眉唾はあれど、映画自体は中々興味深く観れた。
そもそも「ファーゴ」には実話を元にしているというテロップが出るが、それは監督のコーエン兄弟が仕掛けた嘘で、話自体は完全なフィクションである。
しかし、クミコはそれを信じ込んでしまう。いろいろと調べれば、それが嘘だということはわかるのだが、彼女はそれを信じた。あるいは、信じたかったのだろう。それだけ彼女の精神は不安定な状態にまで追い込まれていたのだと思う。このあたりは孤独に陥る現代人の心の闇が垣間見えて少し気の毒に思えた。
映画前半は、日本を舞台にしたクミコの日常描写で構成されている。クミコが会社で孤立する姿。夜な夜な「ファーゴ」を観る姿。一人寂しくコンビニ飯を食う姿等々。正直、展開が単調で余り面白みは感じなかった。
映画後半は、渡米したクミコが様々な人々との交流を描くロードムービーになっていく。ここから徐々にストーリーに起伏ができて面白く観れるようになっていった。
そして、旅の途中で出会う人々が、尽く寛容で優しいのが印象に残った。ここまで善意に満ちた人ばかりか?という突っ込みはあるが、これは明らかに前半で描かれた日本人の冷淡さとの対比からそうしているのだろう。確かに海外から見た日本人のイメージは、勤勉だが情に薄いといった面があるのかもしれない。この辺りは同じ日本人として少々複雑な思いにさせられるが、ともかくドラマの構成としては上手く工夫されていると思った。
そして、訪れるラスト。果たしてブリーフケースがあったのかどうか?その答えはハッキリとは画面に示されないが(そもそもあるはずはないのだが)、実に美しく綺麗にまとめられていた。おそらくクミコからすれば、これはハッピーエンドと言えるのではないだろうか。少し切なく感じると共に、不思議な安らぎを覚えた。
キャストではクミコを演じた菊地凛子が印象に残った。今回は内向的なキャラクターということで、カロリーの少ない演技を貫いている。ただし、終盤で母親との電話のやり取りが出てくるのだが、ここでは一転、ブーストをかけた熱演を披露している。この辺りのメリハリの利かせ方は堂に入っていた。また、今回は大雪原の中での撮影も敢行しており、彼女の体を張った熱演も見ものである。