「スノーデン」(2016米)
ジャンル社会派・ジャンルサスペンス
(あらすじ) 9.11同時多発テロに衝撃を受けた青年エドワード・スノーデンは、軍への入隊を志願した。しかし過酷な訓練で足を負傷し除隊を余儀なくされる。その後CIAの採用試験に合格した彼は、コンピュータの知識を高く買われ、指導教官コービンからも一目置かれる存在になった。一方、プライベートではSNSで知り合ったリンゼイと愛を育んでいく。そんな中、ジュネーヴにあるアメリカの国連代表部に派遣された彼は、そこで情報収集の驚くべき実態を目にしていく。
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(レビュー) アメリカ政府による大規模な監視システムの恐怖を描いた実録映画。
2013年6月、エドワード・スノーデンは米国家安全保障局(NSA)が米電話会社の通話記録を毎日数百万件収集していることをイギリス紙ガーディアンに暴露した。この映画はそこに至るまでの経緯を、事件背景とスノーデンのプライベート、両側面から描いている。
原作はスノーデンに関するノンフィクションということだが、果たしてどこまで脚色されているのか?映画としてよくできているのでそんなことを穿ってしまうのだが、それほどスノーデンの半生はドラマチックなものである。
監督・共同脚本はO・ストーン。この題材は、いかにも社会派作家ストーンの面目躍如といった感じである。氏の国家権力に対する疑心の目は今回も揺ぎ無い。
ただ、本作はゴリゴリの社会派映画かというと、そこまで硬派な作りにはなっていない。演出やドラマの組み立て方にエンタテインメントとしての工夫が色々と凝らされていて、誰が観ても楽しめるような作品になっている。
例えば、現在と過去を交錯させた構成は、観る側の興味を惹きつけるという意味で一つの妙味となっている。
スノーデンがガーディアン紙の記者に事の真相を暴露する現在パートと、彼のこれまでの半生が語られる過去パート。この二つが交互に描かれている。世間的にも大きく報道された事件なので、ことの顛末について知っている人は多いだろう。最初から結末が分かっているので時系列に描いたのではつまらない。だとすれば、このように時世を交錯させながら事の真相を徐々に解き明かしていく方法は中々上手いやり方である。
映画は先に”結末”を提示し、見る側の興味をそこに至る”経緯”へと持って行っている。要するにスノーデンがいかにしてアメリカを裏切りロシアへ亡命したのか?そこの部分を本作のメインテーマとしてるのだ。事件の大雑把な概要しか知らない自分のような人間にとっては、知りたい部分を教えてくれるという観点で興味深く観ることができた。
演出も軽快で観やすい。SNSの広がり方をCGで表現したり、NSAを舞台にしたクライマックスもスパイ映画さながらの緊張感で描かれていてハラハラさせる。キーアイテムであるルービックキューブの使い方も洗練されたユーモアだった。
ユーモアと言えば、恋人リンゼイとのロマンスも一つの妙味になっている。緊張感が続くドラマを上手く和らげることに奏功している。
但し、これは功罪あって、逆に緊張感を緩める”水差し”になってしまった…という言い方もできる。社会派映画として見た場合、このエピソードがあることで全体の鑑賞感が散漫な感じなってしまった感は否めない。
尚、劇中には難しい専門用語が飛び交うので、理解するまでに難儀した。さすがに略称された固有名詞はさっぱり分からず、見終わった後で調べるしかなかった。、リアリティを追求するあまりエンタテインメントとしてはいささか難解な作品になってしまった。
キャストではスノーデンを演じたジョセフ・ゴードン=レヴィットのなりきり演技が◎。本人によく似せていて感心した。