「博士と彼女のセオリー」(2014英)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルロマンス
(あらすじ) イギリスの名門ケンブリッジ大学院で理論物理学を研究する天才学生スティーヴン・ホーキングは、パーティで出逢った女性ジェーンと恋に落ちる。ところが、その頃からスティーヴンの体調に異変が起き始める。やがてALSと診断され、余命2年と宣告されてしまった。将来を悲観しジェーンとの未来も諦めるホーキングだったが…。
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(レビュー) 実在した天才物理学者スティーヴン・ホーキングの伝記映画。
著名な物理学者でテレビや雑誌などでよく目にしていたので、一体彼がどんな人生を歩んだのか?その一点で興味深く観ることができた。
本作は彼の学者としての偉業はもちろん、妻との出会い、結婚、介護といったプライベートに至るまでかなり詳しく綴られている。単なる偉人伝で終わらなかったのが妙味で、表舞台では見れない裏の素顔まで描かれているのが面白い。
尚、原作は彼の元妻ジェーン・ホーキングが書いた伝記小説である。おそらく本作もこの本から余りはみ出ない形で製作されているのだろう。
ああ見えてかなりユーモアを持った人物であったこともよく分かったし、障碍者になったコンプレックスを抱いて生きてきたということもよく理解できた。伝記映画としてはかなり上手く作られているのではないかと思う。
更に、本作にはもう一つ大きな見どころがある。それはホーキングを演じたエディ・レッドメインのなりきり演技である。これが実に素晴らしいと言うほかない。
ある日突然倒れて歩行困難になり、そこから徐々に体と顔がねじれていき、ついには車椅子の生活を送るようになってしまう。ALSという難病だそうだが、その病状進行をエディは実に的確に演じて見せている。しかも、元々の顔立ちがそうなのか、本人に結構似ていて、本作のホーキング博士にはリアリティが感じられた。
特に、後半はほとんど言葉も話せなくなるので顔の表情だけの演技になる。この限られた条件の中でエディは見事に微妙な心理変化を表現して見せている。尚、彼は本作でアカデミー賞の主演男優賞を受賞した。それも納得の演技である。
物語も軽快に進みストレスなく追いかけることができた。この手の難病物に付き物のお涙頂戴モノにしなかった所に好感を持てる。
前半は二人の出会いと結婚、仕事での成功といった明るいトーンに覆われている。
しかし、中盤以降は教会で働く聖歌隊の指揮者ジョナサンが登場し、ホーキングの介護に疲れ果てたジェーンの心が徐々に彼へと移っていくようになる。ここからホーキングの病状も悪化し、映画は陰鬱なトーンで支配されていくようになる。ただ、かなり抑制された演出が通底されているおかげで、この辺りも決して嫌味な感じを受けなかった。
監督は主にドキュメンタリー映画を撮ってきたジェームズ・マーシュという作家である。イギリス人らしい堅実な演出が作品全体を落ち着いた雰囲気にしている。これは決して地味だということを言っているわけではない。オーソドックスであるが、時に流麗に、時にスタイリッシュに上手くメリハリをつけながら1本の作品としてまとめていると思った。
また、先述したようにホーキング博士は、ああ見えて結構お茶目な所がある。彼と周囲のやり取りがユーモアに溢れていて、作品に対する手触りを柔らかくしているのも良かった。
例えば、後半に登場する看護師エイレンとホーキングのウィットに富んだ会話は、暗くなりがちな物語を明るい方向へと上手く持って行ってるような気がする。
一方、気になったのは、子供たちの描き方である。ホーキング夫妻の間には3人の子供がいるが、今一つ彼らの存在感が薄みで物足りなかった。編集で収まりきらなかったのだろうか?本作で唯一そのあたりが不満に残った。