人間は孤独である。それをビジュアル上に焼き付けたラストショットが印象深い。
この作品もそうだが、ポランスキー初期時代の映画はいずれも苦々しい鑑賞感を残す。
「袋小路」(1965英)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 強盗犯のディッキーは瀕死の相棒を乗せて車を走らせていた。辿り付いたのは海辺の古城。そこには年の離れた夫婦が住んでいた。若妻テレサは中年夫ジョージの目を盗んで、城を訪れる青年と情事を重ねていた。彼女はディッキーの出現に戸惑うが、なぜか彼のペースに乗せられてしまう。それを見たジョージは嫉妬心を募らせていく。その後、朝を待つことなく相棒は息を引き取ってしまった。仕方なくディッキーはボスに連絡して迎えに来てもらおうとするが‥。
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(レビュー) 倦怠期の夫婦とそこに潜り込んだ犯罪者の一夜をサスペンスフルに綴った作品。
監督は鬼才R・ポランスキー。テーマは不毛の愛といったところか。
ドラマは至極単純。ややご都合主義な面もあるが、この映画の面白さはそれのみで語られるべきではない。基本的にはシリアスなドラマだが、独特のブラック・ユーモアが随所にちりばめられていて楽しめる。
まず、各々のキャラクターが出色だ。テレサに女装させられて悦ぶ夫ジョージや、犯罪者でありながらどこか人の良さを垣間見せるディッキー。一筋縄ではいかない人物達が面白い。中盤で登場するセレブなカップルも中々面白い関係性を見せている。そして、映画は彼らの間に流れる不穏な空気を巧みなダイアローグとカメラワークで表現している。
彼等は対立を繰り返しながら虚栄、羞恥、孤独、残酷な自分を曝け出していく。人間の建前を剥き出しにするこの作劇は見ていて決して気持ちの良いものではないが、そこにはポランスキーなりのペシミスティックな人生観がはっきりと出ている。夢を語る映画がある一方で、こうした”現実”を提示して見せてくれる映画は希少だと思う。
ただ、同じポランスキー作品で言えば「反撥」(1964英)や「水の中のナイフ」(1962ポーランド)といった過去作の方が、神経症的な演出では切れがあるように思った。先に見たインパクトということもあるかもしれないが、極限状態における人物の心理、切羽詰った状況における人間の狂った言動は、本作の場合、幾分弛緩する。特に、中盤の”ごっこ遊び”がいただけなかった。
この映画のもう一つの魅力は舞台となる古城のロケーションにあろう。夜になると潮が満ち文字通り”陸の孤島”と化すこのファンタジックな状況設定。ラスト・ショットの意味と共に、このドラマを見事に印象付ける舞台である。