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最愛の子

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「最愛の子」(2014中国香港)star4.gif
ジャンル人間ドラマ・ジャンルサスペンス・ジャンル社会派
(あらすじ)
 下町で寂れたネットカフェを営むティエンは3歳の息子ポンポンと2人暮らしである。ある日、ポンポンが何者かに連れ去られてしまう。ティエンはポンポンの母である元妻ジュアンとともに必死で捜索を続けるが、消息をつかめないまま時間ばかりが過ぎていく。

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(レビュー)
 2009年に中国で実際に起こった児童誘拐事件を元に描いた社会派ヒューマンサスペンス。

 中国ではここで描かれているような児童の誘拐事件が大きな社会問題となっているということだ。衝撃のドキュメンタリー「一人っ子の国」(2019米)でも描かれていたので、ある程度は知っていたが、誘拐された児童と残された家族の悲しみを思うと実にやりきれない思いにさせられる。

 本作が秀逸だと思う点は、誘拐された親だけでなく、誘拐した犯人サイドの親の苦悩も描いていることである。

 確かに誘拐した犯人の罪は許しがたいものがある。どんな理由があれ、他人の子供を誘拐して自分のものにする道理はない。しかし、この犯人一家は、ある複雑な事情を抱えている。妻が不妊症で赤ん坊ができなかったのである。だからと言って、他人の子供を誘拐していいという話ではないが、彼女の苦悩を考えると一定の同情を覚えてしまう。

 映画は前半を被害者のドラマ、後半を加害者のドラマに割り振っている。両者の視点を切り替えて描いた理由は明らかで、要するにこの問題はどちらも被害者であり、根本の問題は個人にあるのではなく国や政治、法律といった社会の枠組みの中にある…ということを言いたいのだろう。

 本作には一人っ子政策に苦しむ一組の夫婦が登場してくる。ティエンとジュアンが通う集団セラピーの中の一組の夫婦なのだが、彼らは子供を誘拐されて何年も捜索している。しかし、ティエンたちと同じように未だに見つかっていない。その間にもう一人の赤ん坊が妻のお腹に宿る。ところが、役所に行って出生届を申請しようとすると却下されてしまう。行方不明になった子供の死亡届が出されなければ、新たに出産することは認められないというのだ。行方不明の状態では、当然死亡届は発行されない。夫婦はどうしていいか分からず途方に暮れる。これは明らかに制度上の不備であろう。
 メインの誘拐事件に直接関係しないエピソードであるが、こうした国の一方的な政策によって理不尽な思いを強いられる人々がいるということが最も重要なのだ。だから誘拐事件も後を絶たないし、せっかく生まれてくる生命も無下に処分されてしまう。

 監督は、切ない大人のラブロマンスを描いた「春の日は過ぎゆく」(2001韓国日香港)や、角膜移植手術をモチーフにしたアイディアが秀逸だったホラー「THE EYE」(2001香港タイ英シンガポール)などのプロデューサ、ピーター・チャン。監督業の経験も豊富で、そういう意味では映画作りの酸いも甘いも知り尽くしたベテランである。
 彼の監督作は初見だが、演出自体は実に手練れていると思った。軽快な語り口でグイグイと観る側を惹きつける手腕は見事である。

 また、脚本もよく出来ている。ティエンとジュアンの元夫婦の愛憎関係や、誘拐されたポンポンの無垢なる苦悩。加害者側の夫婦にはもう一人誘拐してきた子供がいて、その子供を巡る親権問題も発生する。複雑に絡み合った問題を”親子の絆”というテーマで集約して見せたプロットは見事と言えよう。

 更に、認知症の母を抱える若き弁護士のエピソードや、都市と地方の経済格差に苦しむ労働者たちの姿など、周縁のドラマも充実している。ある種群像劇的な広がりを見せながら、作品の鑑賞感を豊饒なものとしている。

 尚、ラストには本作のモデルとなった人々が登場してくる。やや感動の押し売り的な嫌らしさは感じるものの、やはりその姿には心を痛めるしかなかった。

 キャストでは、誘拐犯の妻を演じたヴィッキー・チャオの熱演が素晴らしかった。快作「少林サッカー」(2001香港)で頭を丸めたあの少女が、ここでは子供に恵まれない女性の悲痛な思いを切々と語っている。
[ 2020/06/09 00:35 ] ジャンル人間ドラマ | TB(0) | CM(0)

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