「奇跡の丘」(1964伊)
ジャンル人間ドラマ・ジャンルファンタジー
(あらすじ) べツレヘムの大工ヨゼフの婚約者マリアは、聖霊によって懐妊しイエスが生まれた。迫害を逃れるためエジプトからイスラエルに戻りガラリヤで成人したイエスは、ヨハネのもとで洗礼を受けた。その時、天から声かひびきわたり、イエスは神の子として覚醒する。
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(レビュー) イエス・キリストの奇跡の半生を美しいモノクロ映像で綴った作品。
監督・脚本はピエル・パオロ・パゾリーニ。
数々のスキャンダラスな作品で物議を醸したイタリアの巨匠である。自身が同性愛者だったことからも分かる通り、決して信心深いわけではなかった彼が、イエス・キリストの伝記映画を撮っていたというのは意外であった。
とはいっても、ほぼ聖書の内容をそのまま映画にしたような作りなので、果たしてそこにパゾリーニの宗教観がどれほど入っているのかは分からず、もしかしたら彼はキリストに特別な思い入れなど無いままこの映画を撮ったのではないか…という感じも受けた。
確かに、劇中にはキリストが起こす数々の奇跡が描かれている。病人を一瞬で治したり、湖の上を歩いたり等々。しかし、これらは聖書に記されたものであり、オリジナルのエピソードではない。しかも、パゾリーニはこれらを淡々と描いており、いたずらにドラマチックさを狙うような演出もしていない。
キリストの偉大さや功績を讃えるのであれば、ここは神々しく描くべきであろう。しかし、パゾリーニは敢えてそうしていない。客観的な眼差しでイエス・キリストの奇跡を淡々と描いてるのみである。
むしろ、ドラマチックということで言えば、終盤のユダの裏切りの方に盛り上がりを感じた。余りにも有名なエピソードなので知ってる人もいると思うが、ユダは金に目がくらみキリストをローマ側に売り渡してしまう。この場面におけるユダの心情に迫るようなパゾリーニの演出には魅了された。超然とした主人公キリストではなく、敢えて裏切り者である”人間”ユダの葛藤に迫ったことは興味深い。
こうした見応えを覚えるシーンもあるが、しかし全体的にはキリストの生涯をダイジェスト風になぞるドラマは決して新味はなく、余り面白みは感じない。キリストのことをまったく知らない人や聖書をかじったことがない人にとっては勉強になると思う。
一方で、映像については実に素晴らしい。
特に、クライマックスとなるゴルゴダの丘は壮大で迫力のある映像が続く。何と言ってもロケーションの素晴らしさが際立っている。このリアリズムには舌を巻いてしまった。