「ブランカニエベス」(2012スペイン仏)
ジャンルファンタジー・ジャンル人間ドラマ
(あらすじ) 1920年代のスペイン。天才闘牛士アントニオは、ある時アクシデントに見舞われ、荒れ狂う牛に体を貫かれて瀕死の重傷を負う。それを観戦していた妻はショックで産気づき、娘カルメンを生むと同時に亡くなってしまった。全身不随となったアントニオは、カルメンを愛することができず、優しくしてくれた看護師エンカルナと再婚した。一方、カルメンは祖母に育てられながらすくすくと成長していく。
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(レビュー) 闘牛士だった父に捨てられた少女が、様々な苦難を乗り越えて父と同じ道を歩んでいく大河ドラマ。
タイトルの”ブランカニエベス”とは白雪姫のことである。本作はあの有名な「白雪姫」をベースに敷いた寓話である。
何と言っても、特筆すべきは作品スタイルである。本作はモノクロ、サイレント映画である。バックには音楽だけが流れ、セリフは一切なくすべてテロップで表示される。
くしくも前年に同じスタイルで
「アーティスト」(2011仏)という作品が製作されたが、あれと同じようなスタイルである。
ただし、外見は同じように見えるかもしれないが、特異な作品スタイルにこだわった”理由”は両作品はまったく異なるように思う。
サイレント時代の物語を描いた「アーティスト」は、敢えて当時の時代に合わせたモノクロ無声映画で表現することで、作品世界の現実味を巧妙に”パロディ”へと転嫁させていた。
それに対して、本作は元が「白雪姫」というドイツの民話であり、一種のおとぎ話である。その寓話性を強調するために、モノクロ無声映画というスタイルを敢えて選択したのだと思う。
物語は、「白雪姫」をベースに敷いているが、そこに闘牛士という設定と父娘の愛憎を織り込んだ点は新味だ。サイレント映画というスタイル上、シンプルにならざるを得ない面はあるものの、少女の葛藤は十分に語られているし、父を超えたいと願う彼女の熱意もひしひしと伝わって来た。
また、お馴染みの意地悪な魔女や白雪姫の周りに集う小人たちも、少しだけアレンジされた形で登場してくる。もちろん、有名な毒リンゴも重要なシーンで出てくる。
演出も非常にスタイリッシュでケレンに満ちていた。
モノクロならではのコントラストを効かせた陰影の美しさはもちろん、アクションシーンにおける緊張感とダイナミズムも素晴らしい。
また、音楽もサイレントである本作では大きな魅力の一つとなっている。スペインらしいフラメンコのリズムがアクションシーンを大いに盛り上げている。
特に、クライマックスの闘牛シーンは音と映像のコンビネーションが素晴らしく、激しいビートに合わせた短いカッティングで、カルメンの闘志と聴衆の興奮を上手く創出していた。
ラストについては賛否あるかもしれない。ディズニー版の「白雪姫」(1937米)に慣れ親しんだ人にとっては違和感を持つ者もいるだろう。ただ、元々の「白雪姫」には結構残酷な描写があるというし、物語全体の悲劇性を考えれば、このエンディングはごく自然な成り行きと言うことができると思う。個人的にはすんなりと受け入れることができた。