「哭声/コクソン」(1994韓国)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス
(あらすじ) のどかな田舎の村で一家の惨殺事件が発生する。犯人は家族の中の一人で体が奇妙な湿疹に覆われていた。その後に再び一家の惨殺事件が発生し、犯人は同じ症状におかされていた。時を同じくして、森の中で不気味な日本人の姿が発見された。徐々に村人たちの間で彼に対する噂が広まり始める。事件を捜査するジョングはこの日本人が事件に関係しているのではないかと睨む。
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(レビュー) 連続猟奇殺人事件を追う警官がおぞましい体験をしていくオカルト映画。
何とも掴みどころのない作品である。最初は「セブン」(1995米)のようなサイコ・サスペンス風味で開幕するのだが、途中から祈祷師が出てきて「エクソシスト」(1973米)のようなオカルト映画に転じ、しまいには死者が復活して人間を襲うゾンビ映画のようなアクション映画になっていく。
また、閉塞的な村社会特有の、よそ者に対する弾圧が描かれ、その対象が日本人であることを鑑みると、日本と韓国の複雑な関係を汲み取ることができる。戦争の根深い因縁は未だに両国の間で決して拭うことのできない大きな問題となっている。村人の日本人に対する畏怖と敵対心はそのことを暗喩しているのだろう。そういう意味では社会派的な狙いも感じられる。
監督、脚本は
「チェイサー」(2008韓国)、「哀しき獣」(2010韓国)のナ・ホンジン。ダークでバイオレントな作風を得意とする監督であり、その資質は今回も存分に出ている。
ただ、今回は上映時間が2時間半を超える大作である。これだけ長いと流石に途中でダレてしまう。
例えば、祈祷のシーンはリアリズムを重視したのだろう。かなりねちっこく描写されている。祈祷師は悪霊に取りつかれたジョングの幼い娘を祓うのだが、この娘役の熱演が凄まじいこともあって迫力が感じられた。もはや「エクソシスト」のリンダ・ブレアを超えていると言っても過言ではないだろう。
しかし、逆にその熱量が過剰に映ってしまうのも事実である。韓国映画に特有のコッテリ感と言えばいいだろうか…。苦しいときは苦しい、悲しいときは悲しいというエモーショナルさが、観ているこちら側に”圧”となってぶつかってくる。しかも、先述したようにやたらと粘着的に演出されているので、その熱量がかえって空回りしているように見えてしまった。
他にもこの映画では幾つか不要と思えるシーンがある。ジョングと村人たちが乗った車が事故を起こすシーン、一連のゾンビとの対決シーンは、ストーリー上、特段必要に思えない。
こうしたところを編集すれば2時間程度には抑えることができたと思う。そうすればもっと観やすい映画になっていただろう。
また、本作には意味不明なシーンが出てくる。これにも戸惑いを覚えた。
具体的には、白い着物を着た女ムミョンの正体が最後までよく分からなかった。敢えてぼかして観客に考えさせようとしてるのだが、いくら考えても劇中ではそのヒントは自分には見つからなかった。
このように幾つか不満が残る作品である。
ただ、ホンジン監督の高い演出力を感じさせるシーンも所々にあり、そこについては感心させられた。
例えば、クライマックスのジョングとムミョンの対峙は緊張感に満ちたスリリングなシーンで、改めてホンジン監督の演出力に唸らされる。ここもかなりねちっこく描写されているのだが、ジョングの葛藤が見えてくるので決して冗長に感じない。先述の祈祷シーンとの決定的な違いはここである。こちらには葛藤が見えてくる。あちらには葛藤も何もない。ただの見世物でしかないから退屈してしまうのである。
ただ、このシーンには聖書の一節が登場してくるのだが、その意味を分かっていないと真の面白さは汲み取れないだろう。鶏が3回鳴くまで家に戻るなとムミョンは言うが、これはペトロがキリストを裏切った時に出てくる一節である。
キャストでは、謎の日本人を演じた國村準の怪演が強烈だった。ふんどし姿で森の中で鹿の肉を食うシーンのインパクトたるや…。絵面的には笑ってしまうのだが、リアルに遭遇したらさぞかし恐ろしかろう。