「ニア・ダーク 月夜の出来事」(1987米)
ジャンルホラー・ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ) 西部の田舎町。ある夜、ケイレブは魅力的な女性をナンパする。ところが、彼女メイは現代に生きる吸血鬼だった。彼女に噛まれたケイレブも吸血鬼になってしまい、彼は吸血鬼集団に拉致されてしまう。
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(レビュー) 現代に生きる吸血鬼たちの逃避行を乾いたタッチで描いたサスペンス・ホラー。
「トワイライト」シリーズやJ・カーペンターの「ヴァンパイア・最後の聖戦」(1998米)等、この手の作品は色々と作られているが、本作はそれらに先駆けて作られた”現代ヴァンパイア”物である。
昔からあるヴァンパイアの設定。例えば太陽の光に弱いとか、人間の血を吸うことで生きながらえるといった設定はここでも踏襲されている。そういう意味では、オーソドックスなヴァンパイア物と言って良いだろう。
そして、吸血鬼メイと人間ケイレブが恋に落ちるというドラマも、古典的で安心して見れるラブロマンスである。
更に、ここが面白いと思うのだが、本作は西部の田舎町が舞台ということで、どこか西部劇的なタッチが入っている。
例えば、中盤でメイたちが襲撃するバーのシーンは、西部劇でよく目にするシチュエーションである。あるいは、警官隊に取り囲まれてアジトがハチの巣にされるシーンは、「明日に向かって撃て!」(1969米)のようなアメリカン・ニューシネマ的な匂いも感じられる。
このように設定は至ってオーソドックスなヴァンパイア物なのだが、全体的な雰囲気が西部劇っぽい作りになっている所が面白い。
ストーリーは、吸血鬼集団に拉致されたケイレブの葛藤に迫るドラマと、彼とメイのロマンス。この両軸を中心に構成されている。その一方で、ケイレブを救出しようとする彼の父親と妹の追跡劇も描かれている。こちらはやはり西部劇ではよく目にするドラマである。
ただ、正直な所、やや中弛みするといった感じである。どうにも一本調子なので退屈してしまう。また、人間の血を輸血することで吸血鬼が人間に戻るという設定も説明不足なせいで今一つ釈然としなかった。
監督、共同脚本はハードな作品を撮ることで知られるキャスリン・ビグロー。彼女は前作「ラブレス」(1983米)で長編監督デビューを果たしているが、その時には共同監督だった。実質的には本作が彼女の単独の監督デビュー作となっている。
演出はドライながら、時折見せるドラマチックなスローモーションが中々の情感を演出しており、デビュー作にしてさすがの手練れを感じさせる。特にクライマックスの哀愁を帯びたスローモーション演出が素晴らしかった。
先述のバーのシーンも、やはり彼女ならでは剛直さで描写されており、ヒリヒリした緊張感が味わえた。後の
「デトロイト」(2017米)に継承されているような気がした。
ちなみに、ビグロー監督の元夫はJ・キャメロンであることは有名である。おそらく当時、二人の交際は始まっていたのではないだろうか?というのも、前年に公開されたキャメロンの「エイリアン2」(1986米)にビショップ役で出ていたランス・ヘリクセンと、バスケス役で出ていたジャネット・ゴールドスタインが、本作に出演しているからである。本作でも二人は中々良い味を出している。