「不滅の女」(1963仏)
ジャンルロマンス・ジャンルサスペンス
(あらすじ) イスタンブールで教師をしている男は、ある日波止場で一人の美女に出会う。彼女を自宅のパーティーへ招待した後、二人は急接近。邂逅を重ねていくうちに惹かれあっていくのだが…。
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(レビュー) 謎の女に翻弄される中年男の姿を幻想的に描いたサスペンス・ロマンス。
監督・脚本はアラン・ロブ=グリエ。アラン・レネ監督の「去年マリエン・バードで」(1960仏伊)で脚本を書いた彼が、その2年後に監督した長編デビュー作である。現実とも幻想とも言えないつかない浮遊感が全編を覆いつくし、観てるこちらも主人公の身になって翻弄されてしまった。
物語自体はシンプルである。主人公の教師は魅惑的な女に出会い恋に落ちるが、彼女は自動車の運転中に事故死する。教師は彼女を忘れられず、彼女と歩いた道や寺院を訪れて思い出に浸るうちに、彼女は本当に存在してたのか?本当に死んだのか?という妄想に駆られていくようになる。
淡々とした演出が続くので、退屈する人はいるかもしれないが、個人的には最後まで目が離せなかった。物語を追いかけるというよりは、次々と流れてくる幻想的な光景に心奪われてしまった。
女は様々な場所で教師の前に現れる。ファッションや髪型がバラバラなので、このシーンはどのシーンと繋がっているのかさっぱり分からない。
もちろんこれはロブ=グリエの計算なのだろう。教師にとっての女=<幻想>ということで、敢えて整合性のない演出をとっているのだと思う。
中盤で、女は暫く教師の前から姿を消し連絡が取れなくなってしまう。寂しさに耐えかねた教師は彼女と一緒に連れだった場所や、彼女を知る関係者に情報を聞いて回るのだが、不思議なことに彼女のことを誰も知らないと言う。これも女の存在をあやふやなものとする演出だろう。
本作には他にもシュールな演出は横溢する。
例えば、背景のモブは一様に動かず止まっているシーンがある。まるでこの世界が教師と女だけしかいないように見える。
あるいは、キャラの視線が微妙にかみ合わなかったりするシーンもある。
極めつけは、冒頭で女の傍にいたサングラスの男の存在である。画面にたびたび登場してくるが、彼に関しては一切の説明がない。教師もまったく眼中にないため、物語的には完全にカヤの外に置かれている。しかし、自動車事故の直接の原因となった犬を連れて歩いていたし、明らかに画面に定着したキャラとしてひときわ目を引く存在で、何かしら重要な役割を持たされていることは間違いない。
個人的な解釈では、彼は女共々、悪魔的な存在で、主人公の教師を罠にかけたのではないか…と睨んでいるのだが…。
尚、本作はイスタンブールの風光明媚な景観がたくさん登場するので観光映画的な楽しみ方もできる作品である。美しい海岸や古式ゆかしい寺院等、目で見ても楽しめる映像作品になっている。