「ヨーロッパ横断特急」(1966仏スペイン)
ジャンルサスペンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ) ヨーロッパ横断鉄道の個室で映画製作者たちが新作の打ち合わせをしていた。パリからベルギーに麻薬を運ぶ男エリアスが主人公の犯罪映画である。すると、同じ列車に物語の主人公エリアスが同乗してくる。彼は組織の命令で麻薬が入ったスーツケースをベルギーに運び込もうとしてた。
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(レビュー) 映画製作者たちの新作の打ち合わせと、その新作の「物語」を交錯させながら、シュールに展開される一風変わった作品である。
本作がユニークなのは、現実の映画製作者たちの「物語」と、彼らの創造物である「虚構の物語」が時々同じシチュエーションに同居することである。いわゆるメタフィクションというやつで、これが実に面白く、今作を独特の作風に仕立てている。
監督、脚本はアラン・ロブ=グリエ。監督デビュー作である
「不滅の女」(1963仏)からして、特異な作家性を発揮していたが、今回も現実と虚構をごちゃ混ぜにした作りという点では共通している。しかし、「不滅の女」ほど現実と虚構の境界線は曖昧ではない。映画製作者たちのドラマは列車の客室での会話劇として独立し、エリアスの物語とは完全に切り分けられている。
メインとなるのは、そのエリアスの物語の方である。麻薬の入ったスーツケースをパリからベルギーまで運ぶのだが、その道中で彼は組織の支持を受けながら様々な奇妙な人物たちに出会っていく。
中でも白眉なのがエヴァという女性である。
彼女は深夜のバーでセクシーなショーを披露する自称”令嬢”で、エリアスは彼女にのめり込んでいくようになる。しかも、このエリアスにはSM趣味があり、エヴァをロープで縛って抱くのだ。エヴァは一体何者なのか?そのあたりも含めて観ると、この映画はより一層楽しめると思う。
他にも、組織が指定した場所に必ず現れるサングラスをかけた盲人の男、刑事を名乗りながら組織の伝達役を務める男、気の優しいカフェの給仕等、癖を持った人物たちが登場してくる。
基本的にはフィルム・ノワール調の物語であるが、こうしたユニークな人物たちを含め、要所にコメディとも思えるような演出がふんだんに盛り込まれており、その点でも楽しく観れる作品になっている。
但し、終盤で死んだはずのエヴァがSMクラブのステージに登場する辺りは、さすがに戸惑いを覚えたが…。前作の謎の美女同様、ここでも虚像の不滅性を大胆に提示して見せるあたりにロブ=グリエの真骨頂が伺える。基本的に氏は女性という存在に神聖性を見ているようだ。
映画は、最後に映画製作者たちの物語とエリアスの物語を再度交錯させて終わる。これもやはりロブ=グリエらしい遊び心に満ちたアイディアである。果たしてエリアスは劇中の人物だったのか?それとも現実にいた人物なのか?それが分からなくなってくる。
尚、演出はヌーヴェルヴァーグ、というよりもゴダールの影響が強く見て取れる。
例えば、不整合なモンタージュの組み合わせ、音あるいは無音の使い方、そしてB級犯罪映画を敢えてパロディのように取り入れた所に、ゴダールの「気狂いピエロ」(1965仏)や「勝手にしやがれ」(1960仏)の影響が感じられる。しかも、劇中に夫々の作品に主演したジャン=ポール・ベルモンドのポスターが出てくるのだから、明らかにロブ=グリエはこの2本を意識しているだろう。
エリアスを演じるのは名優ジャン=ルイ・トランティニャン。冷酷さを前面に出した演技が中々堂に入っていた。
劇中の映画監督役はアラン・ロブ=グリエ本人が演じている。また、隣に座っているスクリプターは彼の妻ということである。このスクリプターがロブ=グリエの考えたストーリーの矛盾点を次々と冷静に突っ込みを入れるのが可笑しかった。