「嘘をつく男」(1968仏伊チェコスロバキア)
ジャンルサスペンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ) ナチス傀儡政権下のスロバキアでレジスタンス活動をしていた英雄ジャンが死亡した。彼と一緒に戦っていたボリスが、ジャンの邸宅を訪れる。そこにはジャンの妻と妹、家政婦が住んでいた。ボリスは彼女たちを誘惑し始めるのだが…。
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(レビュー) 謎めいた男がレジスタンスの英雄の故郷を訪れ、周囲の人々を翻弄しながら自らの存在自体もあやふやになってしまう幻想奇談。
監督・脚本はアラン・ロブ=グリエ。いかにも氏らしい幻惑的な作りで、正直この物語を完全に理解するのはかなり難しい。
そもそも本作の主人公ボリスは冒頭で撃ち殺されているが、その後何事もなかったように生き返っている。また、彼は革命の英雄ジャンの親友だと言って村を訪れるが、途中からジャン自身であると言い放つ。映画のタイトルからして「嘘をつく男」なので、彼の言ってることはまったくもって信じることができず、真実はどこにあるのか謎のまま物語は進んでいくのだ。果たして、彼はジャンだったのか、ボリスだったのか?そして、ジャンは本当に死んでいたのか、死んでいないのか?
混沌としたストーリーの中で手探り状態で見るしかなく、正直分からないことだらけだった。
ただ、この「嘘をつく」主人公の行動は、どこかユーモアでセクシャルで目が離せない面白さがあり、物語の筋を追うよりも、彼が次にどんな行動をするのか?どんな嘘をついて周囲を翻弄するのか?そういった所を楽しみに最後まで一気に観れてしまった。
このあたりがロブ=グリエ作品に共通する面白さではないかと思う。ドラマそのものよりも、シュールで幻想的なテイストを如何に楽しめるか。これに尽きると思う。
前作
「ヨーロッパ横断特急」(1966仏スペイン)、前々作
「不滅の女」(1963仏)よりも、更にドラマ性を排し、幻想と現実の境界を曖昧にした語り口は非常に取っ付きにくいが、独特の感性はより先鋭化された感がある。
ボリス役を演じるのはジャン=ルイ・トランティニャン。色気のある眼差しは相変わらず素晴らしく、周囲の女たちを虜にしていく様は堂々としたものである。
中でも、酒場の給仕に自分の過去を話して聞かせるシーンで見せる軽やかな身のこなしは印象に残った。また、ブラジャーを手に取り、それを玩具のように遊ぶ姿もユーモアがあってクスリとさせる。