「エデン、その後」(1970仏チェコチュニジア)
ジャンルサスペンス・ジャンルファンタジー
(あらすじ) カフェ・エデンにたむろするパリの学生たちは退廃的な遊戯や儀式に興じていた。そこに突如、デュシュマンという男が現れ麻薬らしき粉末を差し出す。その粉末を摂取したヴァイオレットは様々な幻覚に見舞われていくようになる。
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(レビュー) ドラッグを摂取した女子大生が死と性の世界を旅していくシュールで美しい幻想映画。
すでに冒頭からして、この映画はトリップ・ムービーのごときシュールさと怪しさを放っている。学生たちがロシアンルーレットごっこをしたり、謎のダンスをしたり、公開セックスに興じたり等々。すでに少量のドラッグをやっているらしく、意味不明な乱痴気騒ぎが描かれる。そこにデュシュマンという外国人が現れ、彼らに麻薬らしき粉末を差し出し、ヴァイオレットはこれを口にする。
監督、脚本はアラン・ロブ=グリエ。
今回はドラマよりも映像に全精力を傾けたような作りになっていて、彼のシュールで幻想的な世界観が前面に出た作品になっている。これまで以上に氏の作家性が明確な形で表現されていると思った。
しかも、本作は彼にとっての初のカラー作品である。画面の色彩設計の見事さは本作最大のポイントであり、各所の映像には感嘆するばかりである。
先述したように完全にイメージ先行型の作品なので、ストーリーらしいストーリーはほとんどない。ヴァイオレットがカフェ・エデンに入り浸り、そこで享楽に更けながら、強いドラッグを摂取したことでディープな幻覚を見ていく…という、ただそれだけのことである。
一応、一枚の写真を手掛かりに、チュニジアの小さな町で、ある人物を探し求める…というサスペンスは用意されている。しかし、そこも、もちろん彼女が見る幻覚の世界であり、ほとんど物語的には意味を成さない。
最も印象に残ったのは、チュニジアの美しい青い海と空、真っ白な建物を捉えた美観の数々である。そして、そこにヴァイオレットを演じた女優の、どこかツィッギーを彷彿とさせるコケティッシュな魅力が合わさることで、この世のものとは思えぬファンタジックな魅力が誘発されることになる。
更に、そこで繰り広げられるのは、ロブ=グリエの性的趣向であるSMプレイであったりバイオレンスだったりするので、ただの綺麗、美しいだけの映画にはなっていない。真っ赤な血が青い海や白い建物とのコントラストで、よりいっそう刺激的で残酷なものに見えてくる。真っ赤な血は”死”と”性”のシンボルを意味しているのであろう。独自の残虐趣味をきっちりと主張させるあたりは流石である。
また、本作から、かすかにロブ=グリエなりの宗教観を読み取れたのも興味深かった。「カフェ・エデン」は、その名から明らかなように「楽園」を意味しているものと思われる。とすると、ヴァイオレットがそこで麻薬を摂取して堕落していく…という筋書きには、旧約聖書のアダムとイヴの物語が投影されているとも言える。
これまで宗教については余り語ってこなかったロブ=グリエだが、ここでそれを前面に出してきたのは意外であった。