「囚われの美女」(1983仏)
ジャンルサスペンス
(あらすじ) 闇の組織で情報の運び屋をしているヴァルテルは、ある夜クラブでブロンドの美女と出会う。ボスから仕事が入ったため彼女と別れたが、その晩、奇遇にも再会する。怪我をしていた彼女を介抱して一緒に夜を過ごしたヴァルテルだったが、翌朝目を覚ますと彼女の姿はどこにもなかった。そしてヴァルテルの首筋には何者かに噛まれた傷跡が付いていた。
ランキング参加中です。よろしければポチッとお願いします!


(レビュー) 謎の美女に翻弄される男の不思議な体験を幻想的なタッチで描いたサスペンス作品。
ヴァルテルの前にたびたび現れるブロンドの美女は一体何者なのか?もしかしたら女吸血鬼?敵対するマフィアの刺客?後半でこのブロンド美女がすでに死んでいたことが分かるのだが、だとすると彼女は亡霊か何かだった…ということなのだろうか?色々と想像しながら観ていたが、最後までよく分からなかった。
監督、共同脚本はアラン・ロブ=グリエ。
いかにも氏らしいシュールで幻想的な映像演出が横溢し、独特の世界観が構築されている。どこからが幻想でどこからが現実なのか曖昧なまま話が展開していくので、かなり難解な作品である。
ただ、ファムファタール物として観れば、今回は彼の監督デビュー作
「不滅の女」(1963仏)に似た作品だと思った。
なんでも本作はシュルレアリスム作家ルネ・マグリットの絵画をモチーフにして作られたそうである。時々、額縁越しの海がイメージ映像のように登場するが、これなどはいかにもシュールレアリスムの世界観といった感じがする。混沌とする物語はともかくとして、こうしたシュールで幻想的な映像にはやはり魅了されてしまう。
他にも、黒のレザージャケットに身を包んだ女ボスがバイクに乗って颯爽と走るシーンが何度か登場する。明らかにチープなスクリーン・プロセスで敢えて現実感を失する演出を採用している。普通はやらないような演出を施すことで非現実感、幻想性を強調しているのだ。氏の独特の感性と言えよう。
また、ロブ=グリエは基本的にフィルムノワールを得意とする作家のように思うのだが、今回もその資質は存分に出ている。
ヴァルテルが引き受けた仕事は、ある政治家にメッセージを届けるというものなのだが、すでに相手は死んでいて、ヴァルテル自身が警察に追われることになる。これは典型的な巻き込まれ型サスペンスである。
そして、何と言っても本作はラストが秀逸である。
ブロンド美女は政治家に囲われていた愛人だった。その意味では確かに「囚われの美女」という邦題は正しいのだが、しかし囚われていたのは彼女の方ではなく、実は彼女の幻影に取りつかれてしまったヴァルテルの方だったのではないか…ということが分かり、ハッとさせられるのである。
「囚われの美女」という邦題が完全にミスリードだったわけである。これにはやられた…という思いである。