「乾いた花」(1964日)
ジャンルサスペンス・ジャンルロマンス
(あらすじ) 刑務所を出所した村木は、賭場で不思議な魅力を放つ少女、冴子と出会う。ある夜、村木は屋台で彼女と再会する。冴子にもっと大きな勝負があるところへ連れて行ってほしいとせがまれ、二人は大きな賭場へと向かうのだが…。
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(レビュー) ヤクザが謎多き少女に翻弄されながら賭場の世界にのめり込んでいく異色の恋愛サスペンス。
石原慎太郎の同名原作を松竹ヌーヴェルヴァーグの旗手と称された鬼才・篠田正浩が監督したフィルム・ノワールである。
正直、物語自体は至極シンプルで、これといった盛り上がりどころはない。
途中で村木を襲う若いヤクザが登場して奇妙な師弟関係が育まれるのだが、これが実にアッサリとしか描かれない。
また、賭場で見かけた不気味なヒットマンが村木と冴子の間に割って入るのだが、この三角関係もぼんやりとしか描かれていない。そのため恋愛ドラマ特有の情念とか欲望といったものは余り感じられない。
全体的に突き放したクールな演出が徹底されている。そのためドラマへの感情移入はしずらい作品となっている。
ただ、逆に言えばこのクールさは本作を稀有な作品にしているとも言える。自分はそこに痺れてしまった。
例えば、村木が冴子の車を待つシーン。冴子の車に静かにズーミングしていくゾクゾクするようなカメラワークは、他の映画では中々味わえない秀逸な演出のように思う。
また、中盤で村木が襲われるシーンは、これぞノワールと言わんばかりの渋いモノトーンで表現され目が離せなかった。
更に、村木が見る悪夢シーンの幻想的なタッチには、シュールレアリスムのエッセンスも見て取れる。何とも言えない不条理で不気味な恐ろしさが堪能できる。
このように本作は篠田監督の独特な感性がほとばしった、ある意味で怪作であり、通俗的なやくざ映画とは一線を画したアート映画となっている。
後年、一般商業映画を撮るようになった篠田監督だが、本作や
「心中天網島」(1969日)といった初期時代のラジカルな作品を観ると、改めて氏の振り幅の大きさに驚かされる。
キャストでは、村木を演じた池部良のニヒルな佇まい、冴子を演じた加賀まり子のコケティッシュな魅力が印象に残った。同年に製作された
「月曜日のユカ」(1964日)もそうだったが、この頃の加賀まり子の小悪魔的な魅力は尋常ではない。
音楽は武満徹。前衛的な作風が今回も冴えわたっていた。それが賭場という空間に意外と合っていた。