「無理心中 日本の夏」(1967日)
ジャンルサスペンス・ジャンル社会派・ジャンルアクション
(あらすじ) 男を求めてさまようネジ子は、路上である男と出会い海岸へ行く。しかし、男は自殺願望があり、ネジ子を抱こうとはしなかった。そこへ制服姿の男たちが現れ、武器の入った箱を運び出す。それを目撃したネジ子たちは彼らに連れられて郊外の廃墟であるアジトに監禁される。そこには数人の殺し屋たちがいて…。
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(レビュー) 鬼才・大島渚監督によるシュールでアヴァンギャルドな犯罪映画。
映画冒頭から何が何やらよく分からないシーンのオンパレードである。
街中に白いペンキを塗る謎の集団。日本の国旗を掲げてデモ行進する学生たち。道路に人型のオブジェが突然現れ、海岸から銃火器が入った木箱が掘り出される。一体何が起こっているのかさっぱり分からないまま物語は進行する。
但し、これら一連のシーンはロケーションも含め、映像が実に魅力的である。これから一体何が始まるのか?ワクワクさせられた。
ところが、ネジ子と男がビルの廃墟に監禁されて以降は、序盤で見られたようなシュールさは影を潜め、やや通俗的な作りになってしまう。彼らが監禁される部屋には、様々な個性的な殺し屋たちがいて、黒服の集団が敵対する組織に討ち入りする計画を立てている。結局ただのヤクザの抗争か…ということが分かり肩透かしを食らってしまった。
更に、後半から白人青年による銃乱射事件のエピソードが挿入される。一見するとネジ子たちの物語に何の関係もないように思えるのだが、意外なことにこれが終盤で繋がってくる。ヤクザの抗争はどこへやら、ネジ子たちは武器を片手にこの白人青年の元へ走るのだ。
もはやここまでくると物語としては完全に方向性が定まらないといった印象で、更にドラマへの興味が削がれてしまった。
おそらくだが大島渚は、この白人青年に当時のベトナム戦争の影を暗に忍ばせたかったのだろう。そして、彼を伴って警察と徹底抗戦する終盤の姿には、当時の学生運動を投影したかったのではないかと思う。
尚、東大安田講堂事件が起こるのは映画が製作されてから2年後。あさま山荘事件が起こるのは5年後である。ある意味で、本作はこうした若者たちの熱き時代の終焉を予見したかのようにもとれる。
更に、ネジ子という性に奔放なキャラに翻弄される男たちの滑稽さは、彼らの戦いをどこか茶化しているようにも見える。彼はかつて
「日本の夜と霧」(1960日)で学生運動の行きつく先を早くも見抜いてい。それに通じるような終末観がここでも再現されている。
キャストでは、ネジ子役の女優のインパクトに圧倒された。半分金髪で半分眉毛を剃るという、その大胆不敵な風貌からして強烈である。実は、彼女はプロの俳優ではないらしい。後で調べて分かったのだが、元々はフーテンをしていた所を大島渚に拾われて本作に出演することになったという。演技自体はつたない部分が多いのだが、このキッチュな造形は抜群だった。
また、ライフル銃に異様な執着を見せる若者役で田村正和が出演している。きびきびとした軽快な演技が後年とのギャップから興味深く観れた。