「パッチギ!」(2004日)
ジャンル青春ドラマ・ジャンルコメディ
(あらすじ) 1968年の京都。高校2年の松山康介は、担任教師の指示で、常日頃争いの絶えない朝鮮高校へ親善サッカーの試合を申し込みに行く。親友の紀男と共に恐る恐る朝鮮高を訪れた康介は、音楽室でフルートを吹くキョンジャという女生徒に一目惚れしてしまう。しかし、あろうことか彼女の兄は朝鮮高の番長アンソンだった。
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(レビュー) 純情高校生、康介と在日コリアンの少女、キョンジャのロマンスを、当時の世相を交えて描いた青春ドラマ。
監督、共同脚本は井筒和幸。氏の「ガキ帝国」(1981日)や「岸和田少年愚連隊」(1996日)に通じるような、どこか郷愁を滲ませた忘れがたき青春活劇になっている。どこまでも泥臭く、どこまでも青臭く、既存の価値観に反発する若者たちの生き様が胸を打つ。ある意味で、この3作品は姉妹作と言ってもいいかもしれない。
また、今回は在日コリアンを題材にしている点が、前2作と違って新鮮である。日本人と彼らの間には、過去の戦争の歴史を含め根深いわだかまりが厳然としてある。これにより康介とキョンジャのロマンスには「ロミオとジュリエット」的な障害が立ちはだかり、ドラマチックさも生まれている。
更に、本作には原案となった小説が存在する。「少年Mのイムジン河」というタイトルの小説である。著者はザ・フォーク・クルセイダーズの楽曲「イムジン河」の日本語訳を務めた松本孟という人物である。本作ではこの「イムジン河」が印象的に使用されている。
ご存じの通り、この曲は南北に分断された朝鮮半島について歌った歌だが、ラジオに数回かかっただけでレコード会社は政治的配慮から発売を中止したという経緯を持っている。
そんな曰く付きの曲を、この映画は体制に抗う若者たちの反発の象徴として、終盤にかけて大々的にフィーチャーしている。このあたりの選曲の上手さもこの映画は光っている。
井筒監督の演出は徹頭徹尾コミカルで軽快である。そして、時に浪花節的ペーソスを持ち込みながら、この青春活劇を愛おしく見せている。過去の「ガキ帝国」や「岸和田少年愚連隊」のような無軌道なパワフルさと違い、抑揚をつけた手捌きには余裕を感じさせる。
クライマックスは康介たちのロマンスの行方を追うドラマ以外に、日本人学校と朝鮮学校の生徒同士の抗争、病院に担ぎ込まれたシングルマザーの出産、イムジン河のオンエアを強行するラジオ局の騒動といった複数のドラマが同時並行に描かれている。この辺りの編集の巧みさも見所である。
キャスト陣も今見ると豪華である。キョンジャ役を演じた沢尻エリカが、今では考えられないようなウブな役を演じていて新鮮だった。他に、真木よう子、小出恵介、加瀬亮、坂口拓といった当時の若手俳優が多数出演している。