「ぼくの名前はズッキーニ」(2016スイス仏)
ジャンルアニメ・ジャンル青春ドラマ
(あらすじ) 母と2人暮らしの9歳の少年イカールは、ズッキーニという愛称で呼ばれていた。ある日、母が酒に酔って転倒事故で亡くなってしまう。事故を担当した警察官のレイモンに連れられ、孤児院を訪ねたズッキーニは、そこで新しい生活を始めていく。
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(レビュー) 天涯孤独になった少年が周囲に励まされながら強く生きていく様を感動的に綴ったストップモーション・アニメ。同名の原作小説のアニメ化である。
孤児院には様々な子供たちがいて、夫々に親から見放されたり、虐待を受けたりしてここにやってきた。そのことを正面から描きながら、そんな彼らが”仲間”として強く生きていく様が真摯に描かれている。非常に淡々とした作りで過度に感動を盛り上げない所に好感を持てた。
また、クレイアニメながら、個々のキャラの心の襞を端正に捉えた所も素晴らしく、そこには実写ドラマを超えるような”味わい”が感じられた。
例えば、孤児院の一番の問題児シモンのラストの寂しさなどは実に味わい深い。彼は本当はここから出たい。しかし、それが叶わぬことも十分知っていて、無理にでも明るく振る舞おうとする。この健気さが泣かせる。
キャラクターの造形も一種独特で、決して万人受けするような親しみがあるわけではないが、作品の世界観に沿った作りになっている。ズッキーニをはじめ、子供たちの顔色や目に生気が余り感じられないので少々グロテスクである。このグロテスクさに彼らの置かれているシビアな状況が投影されているのだろう。クレイアニメ独特の温もりの中に毒気をまぶした造形が秀逸である。
物語はいたってシンプルである。ズッキーニは孤児院で虐めにあうが、次第に周囲と打ち解けて仲間として受け入れられていく。そこにカミーユという少女がやってきてほのかな恋心を芽生えさせていく。特に大きな事件が起こるわけではなく、いわばズッキーニの成長を描く物語としては常道をいく展開となっている。
1時間強という中編程度の作品なので、ドラマとしては必要最低限なものを描いたという感じである。一切の無駄がない。
欲を言えば、レイモンのバックストーリーも見てみたかったか…。まるで仏のような慈愛に満ちた善人で表面的すぎるきらいがある。キャラの説得力を持たすためにも何らかのバックストーリーは欲しかったかもしれない。
また、本作は音楽も中々に良い。淡々とした作風にうまくマッチしていた。