「TENET テネット」(2020米)
ジャンルSF・ジャンルサスペンス・ジャンルアクション
(あらすじ) ウクライナのオペラハウスで起きたテロ事件で、人質救出作戦に参加し捨て身の活躍をしたその男は、適性を見込まれあるミッションを託される。それは、未来からやって来た敵と戦い世界を救うというものだった。彼は“TENET(テネット)”と呼ばれる謎の組織の存在を知らされ、ある女性科学者から時間を逆行させる不思議な装置について説明を受ける。
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(レビュー) 時間を逆行させる装置を使って世界を破滅へ導こうとするテロリストとの戦いを、ハードなアクションシーンとミステリアスな構成で描いたSF作品。
監督、脚本はC・ノーラン。「メメント」(2000米)で時間経過の逆行を描いてみせた彼が、再びそれに挑戦したのが本作である。但し、今回は順行する描写と逆行する描写を同時にやってしまうったところが斬新だ。これまで見たことがない映像表現を見せてくれたという意味では大変ユニークな作品である。
物語は時系列に進行するというわけではなく、主人公が逆行する場面も出てくる。逆行する主人公と、過去の順行する主人公が同じシーンに居合わせたりするので、注意しながら観ないと混乱する可能性がある。
しかも、主人公の視座で物語は進行するので、彼以外に逆行する人間まで登場してくると理解が更に追い付かないことになる。正直、自分も完全にすべてのシーンを把握したとは言い切れない。
また、未来人のことやTENETやテロリストの組織、主人公を取り巻く状況について丁寧な説明がないため、不親切に感じる部分もある。未来から送り込まれたという装置の説明も「なぁなぁ」で、ろくな説明がないためSFマニアが見たらきっと穴だらけの作品に映るのではないだろうか。
そもそもセイターが狙う”アルゴリズム”については、ほとんどB級映画のような代物で啞然とさせられた。もっと凄いものだと想像していたので、なんだか肩透かしを食らった気分である。
ただ、こうした突っ込みは、怒涛のようなストーリー展開と迫力の映像でねじ伏せられしまうのも事実で、こういっては何だが今回もノーランの剛腕ぶりに魅了されてしまった。
但し、アクション演出は今一つと感じるシーンがある。特に、モブを扱うシーンは相変わらず演出が上手くなく、誰が誰だかよく分からないのが残念だった。
とはいえ、150分という長さを感じさせない映像演出と複雑なストーリー構成が素晴らしく、改めてノーランの手腕には首が垂れる。しかも、ここまで完全オリジナルの脚本で勝負する人がハリウッドにどれほどいるだろうか?その意味でも、氏は真の表現者なのかもしれない。
尚、本作で最もエモーショナルだったのは主人公の相棒となるニールというキャラだった。ドラマのキーパーソンとして印象に残った。こういうエモーショナルさを持ち込むのもノーラン映画の真骨頂と言えよう。