「草原の実験」(2014ロシア)
ジャンルロマンス
(あらすじ) 広大な草原の真っただ中に1件の小屋が立っている。そこには父と娘が二人で住んでいた。父は毎朝、働きに出かけ、娘は夕方まで父の帰りを待っていた。慎ましやかな暮らしであったが確かな幸せがあった。そんな少女に、この土地に住む少年や、ふらっとやって来た異国の青年が惹かれていく。
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(レビュー) 広大な草原を舞台に一人の少女の暮らしぶりを淡々と紡いだ青春ロマンス作品。
何と言ってもユニークなのは、本作にはまったくセリフも音楽もないということである。
だからと言って消して退屈するわけではなく、少女を巡る三角関係のロマンス、父親の仕事を巡るサスペンス、更にはユーモラスな演出も時折挿入され、最後まで飽きなく観ることができた。
父親の仕事が最後まで謎に包まれたままであるが、これもセリフを排した演出が奏功しているように思った。
実は、父親の仕事がラストの伏線になっていたということが、映画を観終わった後でようやく分かる。この仕掛けも良い。
それにしても、このラストはいい意味で予想を裏切られた。終始、ほのぼのとしたテイストで進行していたので、まさかこうなるとは思ってもみなく、正直度肝を抜かされてしまった。とても衝撃的な結末である。
監督、脚本はアレクサンドル・コット。初見の監督だが、一切のセリフを排して映像だけで語ろうとした大胆な試みは見事に成功していると思った。大草原を切り取った各所の映像美。少年少女たちの心の機微を端正に捉えており、かなりの実力が感じられる。
キャストでは、少女を演じたエレーナ・アンの愛らしい容姿が魅力的だった。無垢で純真な眼差しが印象に残る。その一方で、二人の少年を往来しながら時折見せる小悪魔的な表情も絶品である。
本作で唯一違和感を持ったのは、後半のスピリチュアルな演出であろうか…。少女を巡って二人の少年が決闘をするのだが、闘い終わった後の映像が幻想世界に傾倒しすぎていて困惑させられた。